5周年リクエスト記念

ナマエ

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主に男主
原作改変等有り
ナマエ


ナマエは困っていた。とてつもなく困っていた。もっと言えば恐怖すら覚えていた。
理由は明白。己の手を引き歩く黒いロングコートを身にまとった男。彼がナマエにとってほとんど初対面であり、自身の師であり従兄弟であるケイネスと友人であるウェイバーも参戦している第四次聖杯戦争において敵陣営の人物だからだ。

ケイネスが魔術工房を構えるここ、冬木ハイアットホテルのエントランス。それなりに人が多くいるこの場所ではもちろん魔術を行使することも出来ず、かといって無理矢理振りほどくには隙がなく、唯一出来たことといえば心の中で半べそになりながらケイネスとウェイバーに謝罪と助けを求めることだった。

数日前、キャスター陣営を除く他の陣営が一堂に会したのだが、何故だかその場でナマエがマスター達から重い執着のようなものを向けられているということが発覚した。ナマエが彼らと初対面だったのにも関わらず、だ。何故彼らがナマエの事を知っていて、あまつさえ激重感情を向けているのかは分からないが、兎にも角にもそれからナマエを守るため思うことはあれど大事な従兄弟と友人のためケイネスとウェイバーは一時結託する事となったのだが、その際ナマエはこの聖杯戦争の間1人で行動することをケイネスとウェイバーからそれはもう固く禁じられていた。
ナマエとしては自分のせいで大好きな2人に気を使わせてしまっている現状が申し訳なくて、拠点であるホテル内なら1人で歩いても大丈夫だろうと思ってしまった結果がこれだ。
まさかこんなにも早くに拠点がバレてしまっていたダなんて。これでは余計に2人に迷惑をかける結果になってしまったとナマエが己の浅はかな行動を恥じているうちに、気が付けばホテルを出て人通りのない薄暗い路地裏へと連れ込まれていた。

男がぴたりと足を止める。
ここでなら魔術を行使して逃げても問題ないだろうかと思考していた頭は、己を振り返り見下ろす男の真っ黒な目に停止した。

ナマエ

光のない、真っ黒な目。
ひっとビクついたナマエの様子に、ほんの少し悲しむように男が眉を下げると、まるで幼子でも宥めるような柔らかな手つきで頬を撫でた。

「もう大丈夫、怖がらなくていい。今度こそ、君は僕が守るから」

薄らと笑みを浮かべて男が言う。
今この状況こそ怖くて仕方がないのだと、2人の元へ帰してほしいとは流石に言えはしなかった。

「さぁ、一緒に帰ろう。アイリもイリヤもきっと君を気に入るさ。そしたら皆で一緒に暮らそう」

前みたいに、なんて言って男の手がまたナマエの手を握る。まるで親しい友人と手を繋ぐように。
この人の拠点に連れて行かれてはもうどうしようもないと、ナマエが覚悟を決め魔術を行使しようとしたその時だった。
風を切る音に男が男がナマエを一瞬にして抱きしめその場を飛び退くと、ガキンッという鋭い音と共に剣が3つ、地面に突き刺さっていた。

「その手を離せ、衛宮切嗣」

低く冷たい声、暗がりから現れたの剣、黒鍵を手にした教会関係者であろうこちらも死んだ目をした男がそう睨んだ。

「その子は私の義弟であり、帰るべき場所はお前のところ等では断じてない 」

ナマエは誰かの義弟になった記憶などこれっぽっちもなかったが、あまりにも相手が真剣にまるでそれが真実かのように言うので口を噤むしない。
ただ男、衛宮切嗣の方はそうではなかった。

ナマエがお前の義弟な訳ないだろう。ナマエは僕の親友だ、言峰綺礼」

いや、ナマエは彼の親友になった記憶もやっぱりないのだが、この状況でそれを訂正できるほどの鋼の精神は持ち合わせていない。
教会関係者、言峰綺礼は衛宮切嗣の言葉に顔を歪ませた。
ナマエの意志などまるで無視して、両者互いに1歩も引かぬ態度でバチリと火花を飛ばし合う。

「大丈夫だよ、ナマエ。直ぐに終わらせるからね。今度こそ置いて行ったりしない、2人で帰ろう」

「安心しろ、ナマエ。直ぐにその男の魔の手からお前を救い出してみせよう。私はお前の義兄なのだから」

一触即発。肌を刺すような殺意と向けられる異常な執着。今まさに互いが黒鍵に、引鉄に手をかけたその時だった。
朱と黄の閃光、それから駆ける抜ける疾風がナマエの体を衛宮切嗣から引き離した。

「よくやった、ランサー。そのままナマエを連れて退却しろ!」

「何やってんだお前は馬鹿ナマエ!あれ程1人で出歩くなって言っただろ!!」

「う、うわあああん!ケイネス兄さん、ウェイバー!!」

余程慌てて来てくれたのだろう肩で息をしながら怒鳴るウェイバーと、水銀を携えランサーに指示を出すケイネスの姿にナマエはぶわりと涙を流した。
ランサーとライダーのサーヴァント2騎に、こちらを睨みながら水銀を展開するケイネスに分が悪いと察したのか苛立ち紛れに舌打ちを漏らしながら、2人は暗闇に姿を消した。

ナマエ、怪我はないな。ないならいい。後でジャパニーズ正座で説教だ、いいな」

「ご、ごめんなさいいいい」

ヒンヒン泣きながら2人の説教を正座で聞く事になったナマエだが、今度は赤いスーツの優雅な男と白髪病弱な男に攫われ一触即発展開に巻き込まれるのはこの3日後の事である。

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