5周年リクエスト記念
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ナマエは被害者という概念のサーヴァントだ。
そんな“被害者”であるナマエは“加害者”、犯人が苦手だ。
それは好き嫌いという趣向の問題ではなく、例えて言うならアレルギーとか、そういう本人の性質的な問題で犯人を苦手としている。
多少の差はあれ誰だって、自分に危害を加えてくる相手を好ましいとは思えないだろう。
例えそれが若かりし青年の姿をしていようと、ナマエという被害者にとって苦手なものは苦手。
それだというからナマエはこの2人きりの茶会が始まってからどうやって目の前のいまだ悪のカリスマ足り得ない青年、ジェームズ・モリアーティから逃げようかとそればかり思考してしまっていた。
「茶葉にアッサムを選んだから、ストレートでも勿論美味しいけど、ミルクを入れるのもオススメだ。しまった、お茶菓子も用意しておけば良かったかな」
どこか楽しげに、好青年らしい笑みを浮かべながら差し出された紅茶をナマエは曖昧な笑みを浮かべながら受け取った。
ふわりと湯気と一緒に良い香りが鼻腔をくすぐる。けれどナマエはそれに口付けることはしなかった。いや、できなかった、という方が正しい。
「毒なんて、入っていないよ」
モリアーティの言葉に、ビクリと肩が震える。
そろりと顔を紅茶から上げれば困ったように眉を下げる彼と目が合った。
ナマエは被害者という概念のサーヴァント、勿論その中には毒殺の経験だってある。そしてそれを出してきたのがあのジェームズ・モリアーティなら尚更警戒もするだろう。
「私は君を害するつもりはない。私はただ、ナマエともっと話がしたいだけなんだ。直接的な言い方をするなら、仲良くなりたい」
するりとモリアーティの指先がナマエの手の甲をなぞると、そのままひたりと手首を掴まれる。これがそこいらの女性相手であれば胸をときめかせていたであろうが、ナマエにとっては恐怖でしかない。
力など篭っていないのに、蛇に睨まれた蛙が如く固まってしまってされるがまま振り解けそうにもなかった。
「ねぇ、ナマエ」
ぐっと身を乗り出したモリアーティの顔が、吐息すら感じられるほどに近づく。
どこか熱っぽい目にひゅっと短くナマエの喉が鳴って、唇が触れ合う間際、遮るように背後から誰かの手がナマエの唇を覆い隠した。
「こらこら、私の可愛いナマエをいじめるのはやめたまえ」
「……やぁ、老成した私」
背後から現れた手の主は、目の前と同一人物ながら老成し悪のカリスマと成ったジェームズ・モリアーティであった。
「いじめているなんて妙な事を言わないでくれ。私はナマエと親交を深めているだけだ。邪魔しないでくれるかな」
貼り付けたような笑みを浮かべながらナマエの背後を陣取る自分自身を睨みつければ、大袈裟なまでに肩を竦めた。
「おー、怖い怖い。若さに任せて一方的に突っ走る。それを親交とは言わないのだよ」
ねぇ?なんてどこか可愛こぶった仕草で可愛くない笑みを浮かべながら、ナマエの頭にまるで猫かなにかでも可愛がるように頬を擦り寄せる。
瞬間、バチリと見えないはずの冷たい火花が散る音が確かに聞こえた気がして、間に挟まれたナマエはもう顔を青くして震えるしかない。
出来るなら他所でやって欲しい。そうしてもう自分の事は放っておいて欲しいのに何故こうも絡まれるのか、ナマエには理解できなかった。
「ハッ、ほら見ろ。可哀想に震えてるじゃないか。そんな老いて腰痛に悩むような私より若くて将来性のある私の方が良いだろ」
「ぐっ、腰痛なんて年取れば皆抱える問題なんだ、何も私だけが特別じゃない。若い私の将来性なんてサーヴァントにとって意味の無い不確定要素を出されてもねぇ」
背後から肩を抱く手と前から手首を掴む手に同時に力が篭もってヒッ、と悲鳴が漏れた。
「ど、どっちも嫌だぁ……!」
なんて情けないナマエのか細い泣き言は
笑って黙殺された。
結局ナマエが2人から解放されたのはホームズが通りがかった1時間も後の事で暫く2人のモリアーティを避けに避けるのだがやっぱりナマエは被害者なので結局また捕まってしまうのであった。