5周年リクエスト記念
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ナマエは人狼のサーヴァントだ。
人狼の名の通り、人と狼が混じったナマエがただの人間と違うところを3つ代表して上げるなら、人のそれよりもよく音を拾う三角形のふわふわ狼耳と、尾骶骨辺りから生えているフサフサ立派な尻尾。そして人間の100倍とも言われる嗅覚だろう。
けれど今はその人間より優れた嗅覚がナマエを苦しめる原因となっていた。
三角形の耳はぺたりと後ろに倒れ、尻尾は丸まって足の間に収まってしまっている。
そんなナマエの様子など気にもとめず、目の前の男は“それ”を前に微かな笑みさえ浮かべていた。
「そ、それ、あの、本当に食べるの……」
「勿論食べるとも。やはり、君も食べるかね」
ラスプーチンの提案にナマエは食い気味で大丈夫!と首を横に振った。
ラスプーチンの前に置かれた白い皿の上、とろみのある液体とその中に沈む四角い豆腐とひき肉、申し訳程度の彩に散らされた緑の長ネギ。
その料理の名は麻婆豆腐。
ナマエもカルデアに来てから食べた事のあるその料理はご飯の上にかけて食べると美味しい事を知っている。いつもならナマエだってニコニコでご相伴にあずかっていたに違いない。
ラスプーチンの前に置かれたその麻婆豆腐が異常な赤色と鼻にツンと痛む刺激臭を放っていなければ。
ナマエはただ食堂に仲良くしている千子村正と食べる夜食を取りに来ただけなのに、このもはや危険物と呼んでも差し支えない麻婆豆腐を食べるというラスプーチンが倒れたりしたらどうしよう、と心優しいこの人狼は放っておけなくなってしまっていた。
悲しいかな夜半のカルデア食堂は普段なら酒飲みのサーヴァントやら夜食を求めた職員やらがいるはずなのだが、何か虫の知らせ的な危険を感じとったのか、今日に限ってはラスプーチンとナマエ以外誰もいない。
故にこの現状にツッコミを入れてくれる人はいなかった。
「それでは、いただきます」
ハラハラと心配するナマエを他所に、依代になった日本人らしく手を合わせるとラスプーチンはレンゲで麻婆豆腐を掬い上げ頬張った。
1口、また1口。止まることなく掬っては食べ、掬っては食べを繰り返すさまはどこかタイムアタックじみている。
熱いのかいつの間にやら流れる汗すら気にもとめず、流れ作業のようにカソックの胸元を開けてまた麻婆豆腐を食べる。
「す、すごい」
気がつけば3分の2程がもう既にラスプーチンの胃に収まり、白い皿の底が顔を覗かせていた。
「やはり、見ているだけでは勿体なかろう」
「へ」
きょとり、と開いた口へ拒否する間もなく麻婆豆腐を乗せたレンゲが突っ込まれる。
途端、ナマエの体が電撃を受けたように震え、毛はぶわりと逆立ち膨らんだ。
確かに感じる旨みとそれを圧倒する辛さ。いや、もはやそれは痛みと言っても差し支えないだろう。
「どうかね、中々いける味だろう」
「おい、ナマエいるかい?中々戻ってこないんで様子を見に来たが……」
待てど暮らせど戻ってないナマエを心配して見に来た村正の目に飛び込んできたのは、顔を赤くして震えながら放心するナマエと、空っぽの皿を前に汗を流し満足気に微笑むラスプーチン。そして微かに残るスパイス特有の刺激臭。
状況を察して慌てて駆け寄った村正がナマエに呼びかけながらその背を摩る。
「おい!まさかあの劇物ナマエに食わせたんじゃねぇだろうな!?」
「食べさせたが?」
それが何か?とでも言いたげなラスプーチンに村正は莫迦野郎!と怒鳴るとナマエの口にせめてもの応急処置としてバニラアイスを突っ込んでやって何とかナマエは一命を取り留めたのだが、それ以降暫く麻婆豆腐とラスプーチンに怯え、村正の背に隠れるナマエの姿が見られとかなんとか。