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「船長ーーーーーー!!!!!」
聴き馴染みのある悲痛な叫び声にカルデアの廊下を1人歩いていた黒ひげことエドワード・ティーチが振り向くと同時に、叫び声の主であり、自らの船の船員であるナマエが勢いよく抱きついてきた。
「拙者、男に抱きつかれて喜ぶ趣味はないでござるよ」
ティーチはげんなりとした顔でナマエを引き離そうとするが、えぐえぐと不格好な泣き顔を晒したまま抱きついて離れようとしない。
「あ、いた!黒ひげーー、ナマエーー!」
廊下の奥からマスターである藤丸立香とマシュ・キリエライトが、黒ひげとナマエの2人を見つけると慌てて駆け寄ってくる。
「マスター殿ぉ、これは一体何事でござるか〜??拙者、そういうやおい的なあれを否定する気はないでござるが、自分が対象になるのはちょっとNGっていうかぁ〜……」
「いや違うから」
黒ひげの言葉に否定する立香に、マシュだけはやおい……?と首を傾げた。
いや、そんなんじゃなくて実は……と立香が語り始めたのは数時間前の出来事。
その事件が起きたのは目立った特異点反応も無く、急を要する問題も見当たらないということで、1部の職員達でカルデア内の私物整理をしようということになったのだ。
何しろ今のカルデアは人理修復の真っ只中。どこに何があるのかの把握や、利用できそうなものは利用する。
そのため職員達は、これは使える。これはゴミだ。いやそれは俺の秘伝のお宝だやめてくれ。
そんなやり取りを交えながら作業を進めていれば、日課の種火集めを終えたらしい立香とマシュ、それに同行していたナマエたちの3人が面白そうだからと参加し、作業は着々と進んでいった。
そんな中、ふと立香の目にある物が映る。
見ればそれは、人生ゲームやトランプなどのいわゆるアナログゲームのいくつかだった。
「なんでこんな物が……?」
「いやぁ、カルデアって閉鎖的空間じゃない?立地上、なかなか外にも出れないしストレス溜まるって事で、休憩時間とかシフトが休みの人達で息抜きに遊んでたのよ」
懐かしいと笑う職員に、立香もなるほどなと手元の玩具を見つめ、そしてその中の一つの玩具に気がつく。
樽型の模型にプラスチック製の剣を刺し、“とある海賊船の船長を飛ばす”玩具
「マスター……その……玩具は……」
慌てて隠そうとした時には既に遅い。立香の持つ玩具を凝視したナマエが震えながら指さす。
「黒ひげ危機一髪シスベシホォーーーーウ!!!!!」
どこか聞き覚えのある叫び声がこだました。
「それで拙者のところに来たと……」
そう言うこと、と苦笑する立香に黒ひげは呆れたようにため息をつけば、それにナマエがピクリと反応する。
「だっ、だって!!黒ひげ危機一髪って!なんスかその鬼畜の極みみたいな玩具!!」
「まぁ、鬼畜の極みって拙者達海賊稼業が言えたあれじゃない気もするでござるけど」
黒ひげの最もな言い分に、立香もマシュも確かにと頷く他ない。
黒ひげはナマエへ視線を落とせば、いまだに泣きべそを晒すその丸っこいおでこにバシンと1つ、デコピンをしてやった。
痛い!と赤くなったおでこを摩るナマエに黒ひげはむすりとした顔で口を開いた。
「お前が乗ってる船の船長は誰だ」
「……黒ひげ、エドワード・ティーチ船長です」
いつもとは違う真剣な黒ひげの声音と顔に、立香もマシュもただ黙って2人を見守る。
「なら、一々そんなことで狼狽えるんじゃねぇ。俺様の船の船員なら堂々としてな」
そう言って黒ひげは、乱暴な手つきでナマエの頭を撫で回す。
ナマエは黒ひげから、抱き着くのをやめると、ぐしぐしと涙を拭ってキリリと表情を引き締めた。
「はいっ、船長!!」
威勢のいい返事、けれどぐしゃぐしゃに乱れた髪が鳥の巣のようでどこか締まらない。
立香とマシュが一件落着かな?と安心したように笑えば、黒ひげも自分の船員の姿に満足気にゆるりと目を細めた。
「やっぱり、黒ひげも自分の所の船員は可愛いんだね」
「いやだからマスター、拙者にそういうやおい的趣味趣向はないでござるよ。あ、でもアストルフォきゅんとかデオンちゃんくんならワンチャン……?」
「いや、そう言う意味で言ったんじゃないってば」
「よく分からないけど、俺はどんな黒ひげ船長にも一生ついて行きます!」
あぁ、最後はやっぱりかっこいいままで終われないんだなぁと立香の呆れたため息は、ナマエのでもやっぱり黒ひげ危機一髪は許さねぇ!の言葉に掻き消えて、誰の耳にも届くことはなかった。