特殊リクエスト企画2
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アグラヴェインは普段ならば先回りして進めてしまう仕事を、キリの良いところまで片付けると自身の執務室を後にした。
「働きすぎなのが貴公唯一の欠点」とまで言われたアグラヴェインにして珍しいそれは、とある日を境にして定期的に行われていた。
王都で仕事することの多いアグラヴェインは自身の領地での家の他に、城の方にも宿舎に1部屋持っていたのだが、アグラヴェインは態々王都と多少距離のある領地の家の方へと帰宅した。その為に仕事を早く切り上げたと言ってもいい。
何故そんな面倒な事をしているのかといえば、それは至極単純な理由なのだが、このアグラヴェインという男がしているというのは驚くべき事だった。
重い扉を開けた途端、ふわりと香るそれが鼻腔を擽った。
そのまま真っ直ぐにその香り、フェロモンの発生源である寝室へと歩を進める。
ノックを2つ。返事はないが気にせずにアグラヴェインは寝室の扉を開けた。より強いフェロモンが寝室中を満たしていてアグラヴェインは薄く息を吐いた。
広いダブルベッドの上にこんもりと、アグラヴェインのあまり多くはないない寝巻きや肌着が積み重なって小さな山が出来上がっていて、アグラヴェインはその衣服の山へ向かって声を掛けた。
「今帰った」
かけられた言葉に山がもぞりと動いて、衣服の隙間からひょこりと顔を覗かせた。
「おかえり、アグラヴェイン」
彼の名前はナマエ。この山、否、巣を作り出した張本人であり、αであるアグラヴェインの番のΩだった。
第二の性、バース性など面倒くさいと、むしろ嫌悪の対象ですらあったはずなのに番という関係を結んだのは、隣でヘラヘラと笑うそのアホ面に絆されたのか。
慣れた手つきで鎧と一緒にマントを脱ぎながら、己が番の元へ近付くと脱いだマントを巣から手を伸ばすナマエへ渡してやれば、ナマエはふにゃりと笑いながら受け取るといそいそと巣の一部へとそれを組み込んだ。
ネスティング、巣作りと言われるそれはヒート、所謂発情期の時に多く見られる、Ωが好意を持つ相手や番であるαの私物を集めて作られる。
発情期はだいたい3ヶ月に1度、1週間程の期間訪れる。つまりアグラヴェインは自身の番の発情期に合わせて仕事を切り上げて来たのだ。
城の宿舎ではなく、自身の領地でナマエに過ごさせているのもそれが理由だ。
いくら番となってお互いのフェロモンにしか反応しないといっても、番の発情した姿を他人に晒すという選択肢はアグラヴェインの中にはなかった。
赤く染った頬も、熱に浮かされ潤んだ瞳も、貴方が欲しいのだと訴えかけるフェロモンの香りも、全部が全部アグラヴェインだけのものなのだ。
「体調の方はどうだ」
己が番の発情期に甘い言葉なく、ただ淡々とした口調でそう聞く。
他の円卓の騎士、例えばそう、アグラヴェインが毛嫌いしている何処ぞのフランス生まれの泉の騎士ならばキザったらしい甘い言葉の1つや2つ投げかけてキスでもしたのだろうが、アグラヴェインはそういった事を得意とはしていない。それでもナマエはその言葉に滲む自分を按じる気持ちを確かに汲み取って笑って「平気」と頷いた。
「でも、抱きしめては欲しいかも」
そう言って強請るように伸ばされた手に、アグラヴェインは1つため息を零してベッドへ乗り上げると巣ごとナマエの体を抱きしめてやった。くふくふと耳元で聞こえる笑い声にもう1つため息が零れる。
「上手に巣、作れたでしょ」
「あぁ」
「ちゃんと明日着ていく用の肌着とかは使わずに、残してあるからね」
「あぁ」
聞きながらナマエの首元へ目をやる。
この首筋へ最後に跡をつけたのはいつだったか。確かに付けたはずのそれはすっかり消えてしまっていた。
アグラヴェインとナマエは番ではあるが、世間一般的な他の番と比べればそういった行為のする回数は圧倒的に少ないだろう。
アグラヴェインは元々、そういった行為に関心がない。子を成す気もなかった。
あの母親から生まれ育った自分が父親に成れるはずもなく、また子が生まれたとしても自分が何よりも優先するのはきっと後にも先にも我が王だけだろう。
そう思っているのに番になることを選んだのは、それでもいいのだとナマエが笑ったから。自分はそれに甘えているのだ。
ナマエを縛り付けると分かっていてそうした。普通の幸せを与えられないと、分かっていたのに。
「アグラヴェイン」
ナマエの手が几帳面に整えられたアグラヴェインの髪を撫ぜて乱す。
「おれ、アグラヴェインと一緒にいられて、幸せだよ」
アグラヴェインの考えている事などお見通しだとでも言うように、ナマエがくしゃりと目を細めた。
「.......お前は」
「うん」
体が熱いのはΩのフェロモンに誘発されたせいなのか、それとも抱き締めた体から移ったのか。
「お前に選ばれたのが、私で良かったと、そう思う。そう、思ってしまう」
「あはは、俺も、アグラヴェインに選ばれてたのが、俺で良かったって思うよ」
それが3人になるにはきっとまだ、何もかも足りていないのだろうけど、ナマエと2人ならいつかそうなれるのかもしれないと思ってしまう程度には、アグラヴェインはこの熱に浮かされていた。