2021クリスマスリクエスト
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雪が降る。雪が降る。
人理が焼却され残されたこの地であっても、雪は変わらず降り積もる。
銀白色のそれはあの日と同じに全てを覆い隠していくようで、金色の鬼、茨木童子は時折独りそれを見つめていた。
「おい、マスター!今日も召喚室に行くぞ!」
「うーん、今日もか〜!」
そう言ってぐいぐいと力強く腕を引く茨木童子に、藤丸立香は苦笑を零した。
何がきっかけだったのかは分からない。いつの頃からか、茨木童子は日に1度自身の目の前で藤丸に召喚を強請るようになった。
戦力が増えるに越したことはなく、頻度も日に1度のみ。だから藤丸はそれに応えて召喚を行っている。
何より召喚サークルの光を見つめる茨木を見てしまえば、もう藤丸には断るという選択は出来なかったのだ。
投げ込まれる聖晶石、回転する光の輪。
茨木にとって人間のことなどどうでもいい。マスターではあるが鬼の自分にとっては、藤丸の指示など聞いてやる必要もない。
けれど茨木は藤丸の指示を聞いている。だから自分にはそれなりに対価が支払われて然るべきなのだ。それが新しいサーヴァントの召喚だった。
あれは、あの真白の冬のような人間は何かを成した訳では無い。
偉業を成したこともなく、悪業を成したこともない。サーヴァントに成りえないことなど分かっていた。
それでも茨木は止める事が出来なかった。
茨木は鬼だ。自分が欲しいと思ったものは盗んででも、殺してでも手に入れる。
だから茨木は止めなかった。
収束して弾ける光の輪。
そこに茨木の求める冬の姿はない。
「……戻ろうか、茨木」
「……あぁ」
分かっていたのだから、落胆することはない。
背を向けようとしたその時、召喚サークルが新たに光り出す。
回転する光の輪、収縮してそれが弾ける。
召喚サークルの中心に立つ真白い人影。
「サーヴァント、キャスター雪降り入道。またの名をナマエと申します。以後、お見知り置きをば」
白い髪、白い肌、その白の中で瞬く南天の実のような赤い瞳。
「久しぶり、茨木童子。今度は俺の方から会いに来たよ」
「遅いわ、馬鹿者!!!」
ガバリと飛び付いた茨木のその勢いに、ぐらりとナマエの体が傾いて2人召喚室の床に倒れ込んだ。
触れ合う肌は、あの日の雪のように冷たい。
それが少し気に食わなくて、ぐりぐりと肩に頭を押し付けてやる。角が痛いがなんだと聞こえたが、そんなもの今の茨木には関係なかった。
「鬼でないのは気に食わぬが、特別に赦してやる!」
上等な甘味も持ち合わせていない、内通者も必要はない。
それでも茨木の胸を満たすのは、春雪の様な柔らかなもの。
今度は溶けて消えないように。溶けるのならば、今度も自分の手で溶かそう。
「人でなくなったのならば、今度こそ大江の山で共に暮らすぞ。いや、その前に酒呑に挨拶するのが先か……は、頼光には見つからぬようにせねば」
「え、頼光さんもいるの?後で顔見せに行かなきゃなぁ」
「ならん!ならんぞそれは!」
ぎゅむぎゅむ、きゃいきゃい、くっついたまま話す2人に藤丸は自分空気なのでは?と苦笑を漏らす。
けどきっともう茨木が召喚を強請ることも、独りで雪を見ることもないのだろうと、藤丸は緩りと目を細めた。