2021クリスマスリクエスト
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“クリスマス”
キリスト教の生誕を祝う日、海外では家族と過ごす事が多いのだろうが、現代の日本ではそこかしこで恋人たちが寄り添い合う光景の方が多く見られている。そしてその恋人たちに羨望なり嫉妬の眼差しを向ける奴らも多数。
ナマエももれなく、クリスマスにかこつけてイチャつくリア充達にギリギリと睨みを効かせている悲しいモンスターの1人だった。
いいもん!士郎からクリスマスパーティー誘われてるし!けどその前にフラれてるけど
来年こそは友達として過ごすクリスマスパーティーじゃなくて、士郎と恋人として過ごすクリスマスデートするんだもん!
そんなことを毎年のごとく思ってたかつての自分に、切実に今の光景を見て欲しいとナマエは思った。
「お、俺は今アンテロスの擬似サーヴァントである訳だし、このクリスマスは繁忙期といいますかなんといいますか」
アンテロス、ギリシャ神話における返愛の神。
分かりやすく言えば恋のキューピット的なあれである。
ナマエには最初、ナマエとしての記憶はなく、アンテロスとしての意識の方が表に出ていた。
けれどさすが返愛の神と言うべきなのか、再臨した際に恋する相手が居るのならばと背中を押す形で、主人格と記憶をナマエに譲り渡してくれたのだ。
そんな経緯を経て、今の形に落ち着いたわけなのだが、なんだか前に会った時よりもエミヤの押せ押せが強くなっている気がしてナマエの内心はもうはちゃめちゃになっていた。
「君がそういうのならば、ぜひ私の恋も叶えてくれると嬉しいのだがね。何、簡単だ。君は頷いてくれるだけでいい。後は私が全てやろう」
ふっと笑みを浮かべたエミヤの言葉に、真っ赤な顔で挙動不審に視線をさまよわせる。
確かに恋人として2人でクリスマスパーティーを過ごしたい、とは願ってきたがここまでしろとは言ってない。
学生時分、士郎の時は押せ押せ根性であんなに好きだと告白できたのに、エミヤの前ではどうもそれが出来なかった。
嫌いになった訳では断じてない。だってやっぱりどこまでいってもエミヤのその根底にあるのはナマエが恋した彼だったからだ。
けれど1度想像して見てほしい。あんなに好きだと告白しては毎度丁寧に自分をフっていた男が大人の男になって、なんだかちょっと色っぽく逞しくなってるっていうだけでもグッと来てしまうのに、まさかまさかの自分に好意を寄せてきて学生時代とは一変、彼の方から好きだと愛を囁いてくるのだ。
そんなことをされてナマエの心臓はもう限界寸前。真っ赤な顔で震える様は産まれたての赤子が如くといった有様だ。
「君と2人でクリスマスを過ごしたい。返事を貰えないだろうか」
すり、と武器を握るようになってあの頃より固くなった手が、ナマエの頬を優しく撫ぜていく。
長年片想いをしてきた相手にそうされて落ちない奴がいるのだろうか。いや、いない。
少なくともナマエはもう、赤べこみたいに頷く事しか出来なかった。
「お、お邪魔します」
「あぁ、いらっしゃい」
そんな会話から数日後のクリスマス。
そろりとエミヤの自室に来たナマエは、目に入ったそれらに思わずわぁ、と感嘆を漏らした。
普段は比較的シンプルなエミヤの自室だが、今日はミニサイズのクリスマスツリーやちょっとした小物が飾られている。
机の上にはカルデアの皆の分とは別にエミヤが作ったのであろう2人用の小さな丸いホールケーキ、隣に置かれたボトルはシャンメリーだろうか。
ナマエも招かれた身として一応と、食堂からちょっとした軽食は貰ってきていたが、あまり必要なかっただろうか。
「ナマエと2人で過ごせると思ったら、少し張り切りすぎてしまってね」
またそんな事を、と赤くなった顔でエミヤを見てその目に柔く灯る熱に息を飲んだ。
あ、と小さな声がでて、思わず視線を逸らしてしまう。
「やっぱり、今の俺じゃダメかな」
ふとそう漏れ出たどこか寂しげなその声音に、ばっと顔を上げる。声音と同じで表情まで寂しげで。そんなのずるいじゃないか、こちとら何年片想いしてきたと思ってるんだ。
「ダメじゃない、俺はずっと衛宮士郎が、君が、好きだよ」
1拍置いて、とろりとエミヤの顔が笑みに歪む。
そっと頬に添えられた手が熱を帯びていて、心臓がきゅうと音をたてた。
「俺も好きだよ、ナマエ」
エミヤの顔が近づく。
クリスマスケーキも、シャンメリーも、口付けるのきっとまだ先のこと。