2021クリスマスリクエスト
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ナマエは所謂反英霊というくくりのサーヴァントだ。それと同時に無辜の怪物でもある彼の生前はやはりそう成ったことに相応しく、なかなかに悲惨なものであった。
そんなナマエであったから当たり前のようにイベント事など経験したこともなく、その殆どがカルデアに来てから初めて体験するものだった。
「村正、村正、あのね、お願いがあるんだ」
珍しいナマエからのその言葉に、村正は顔を上げた。
「ほう、そのクリスマスツリーに飾る何かしらを作るのを手伝って欲しい、つうわけだな」
「うん。ナーサリーやアステリオス達とツリーに飾る物を1人1つ持ってきて、飾ろうって.......」
村正はなるほどな、と顎に手を当てた。
サーヴァントとして召喚されるにあたって、現代の知識はある程度得ているが、本来の村正にとってクリスマス、というのは馴染みの薄いものだ。それにしたってカルデアのクリスマスはまた一癖も二癖もあるものなのだが。
「それなら他に、クリスマスに馴染みのある奴らの方が適任なんじゃねぇか」
カルデアには歴代サンタもいる訳だし、欧州のサーヴァント達の方が余程詳しく知っているだろう。
それにナマエは勢いよく顔を横に振った。
「村正の作る物、全部キラキラしてて、強くて、綺麗で、かっこいいから、ツリーに飾ったら素敵だと思うんだ」
世辞で下心でもない純粋な賞賛に、顔が熱くなるのが分かって村正は思わず顔を逸らした。
「はぁ、そこまで言われちゃあ手伝わねぇ訳にはいかねぇな」
わしゃわしゃと照れ隠し混じりで乱雑に頭を撫ぜてそう答えてやれば、ナマエは目をキラキラと輝かせた。
さてどうしたものか、と頭を撫でる手はそのままに考える。
村正は刀鍛冶だ。刀を作ることこそ本職だがクリスマスツリーに刀を飾る訳にはいかない。
勿論刀以外も作ることは出来るが、ナマエも一緒に作るとなれば初心者には鉄製の物は難しいだろう。
「それなら、木には木の飾りでいくか」
にっと笑ってみせた村正に、ナマエはきょとりと首を傾げた。
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「村正見て、綺麗に塗れた!」
「おう、よく出来てるじゃねぇか」
茶色に塗られたトナカイの木製オーナメントを手に得意げに笑うナマエを、村正は微笑ましげに見つめた。
村正がツリーの飾りにと選んだのは、シンプルな木のオーナメントだった。
鉄と違ってそう扱いが難しいわけでもなく、ナマエでも上手く作ることが出来るだろうと考えたのだ。
木を切って形を作るのは村正が、ヤスリがけと色塗りはナマエが担当して作ったオーナメントは、トナカイにサンタクロースといった王道のクリスマスらしいものから、なんだか見た事あるような素材っぽい勲章だったりランタンだったりの変わり種まで様々だ。
塗ったばかりのトナカイを光にかざして見るナマエの尻尾が、ぱたぱたと得意げに揺れている。
「早く皆に見てもらいたいなぁ。おれ、カルデアに来て初めてクリスマスパーティーして、すっごく嬉しくて……今年は村正も他の新しい人もいて、また皆でパーティー出来るの、すっごくすっごく楽しみで嬉しい」
人を憎んで、恐れて、怯えて、それでもカルデアの人達は優しくて、お祝い事なんて初めてで、ナマエは自分を受け入れてくれたカルデアが大好きだった。
「儂もこのカルデアでお前さん達と初めてのクリスマスとやらを迎えられて嬉しいよ」
だからほら、と村正がナマエに向かって何かを投げるのを両手でパシリと受け止めると、それが何なのかに気付いたナマエは目を見開いた。
「これ……!」
「おう。ちっとばかし早いが、まぁクリスマスプレゼントってやつだ」
それは掌に収まるほどの、小さな鉄細工の狼だった。ナマエの目と同じ色をしたもっと小さな硝子玉がオオカミの目の変わりにキラキラと光っていて、それを見つめるナマエの目も同じようにキラキラと輝いているのを見て、村正はふっと笑を零した。
けれど次の瞬間、ナマエがハッとした顔したと思えばしょんぼりと耳を垂らして村正を見た。
「ありがとう、村正。でもおれ、オーナメント作りに必死で村正にプレゼント、用意してなかった」
耳と一緒に力なく尻尾下げてそう言うナマエに、村正はなんだそんな事かとカラカラと笑ってナマエの頭を撫でた。
「儂がしたくてやった事だ、気にするな……けどまぁそうだな、儂にとって初めてのクリスマスだ」
きょとりと村正を見上げるナマエに、村正は悪戯めいた笑みを返した。
「クリスマスはお前さんの方が先輩だ。儂に色々教えてくれ。すっごく楽しいんだろ?」
その言葉にナマエの目がまたキラキラと輝き出して、パタパタと勢いよく尻尾が揺れ出した。
「うん、うん!1番美味しそうに焼けてるチキン選んであげるし、ケーキも大きいのおれがとってあげる!ツリーも1番綺麗に見えるとこ教えるからね!」
「ははっ、そりゃ俄然楽しみだな」
あぁ、本当にきっと楽しいものになるだろう。
揺れる尻尾に村正は目を細めた。