2021クリスマスリクエスト
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「真田くん、これあげる」
まだ人もまばらな朝の教室、クラスメイトのナマエからそう言ってペラリと目の前に差し出されたパステルカラーの紙を受け取ると、真田は印刷された文字にカッと目を見開いた。
「これは、うさいぬテーマパークのチケットではないか!」
思わず出てしまった大声に、慌ててハッと口を結ぶ。
真田は誰もが認める日本男児といった男子学生ではあったが、また同時にうさいぬという可愛らしいマスコットキャラクターを愛でているという一面も持ち合わせていた。
特に隠していた訳でもないが、自ら周りにうさいぬ好きを公言していた訳でもない。
けれどどこで知ったのか、ナマエはニコニコと笑いながら、真田にうさいぬテーマパークのチケットを差し出している。
「あ、有難いが金はきちんと払おう!」
まだバイトも出来ない中学生にとっては、高くもないが安くもないだろうそれに、真田は財布を取り出そうとするがナマエは弦一郎君は真面目だなぁ、と笑って拒否する。
「本当に気にしないで、これ貰い物なんだ。
おれより、真田くんの方がうさいぬ好きでしょ?この前たまたま柳君達とうさいぬショップに行ってるとこ見かけたんだ。日頃のお礼だと思って受けっとてくれると嬉しいな」
そう言って半ば無理矢理、真田の手にチケットを握らせると、丁度よく鳴ったチャイムの音にこれ幸いとそのままそそくさと席に戻った。
真田が何か言いたげに投げかける視線も、にっこり笑って相殺すれば、真面目な真田は担任が教室に入ってきたことで大人しく前を向いた。
そうしてナマエは、ほうっと息を吐いた。
そっと胸に手を当てれば、心臓はいつもより鼓動を早めていた。
日頃のお礼、と言ったのは間違いではない。ナマエはどうにも詰めが甘い所があるというか、ぼうっとしてしまう性格のせいなのか、制服検査で引っかかってしまう事が少なからずあった。
本人は気をつけているのだが、シャツのボタンが1つ取れかかっていたりだとか、靴下が学校指定のものでなかったりだとかそういう小さいやらかしをしてしまう事があり、その度に風紀委員である真田に迷惑をかけている自覚があった。
まぁ、故意ではなく、ナマエ自身も反省して次に活かそうと努力してることもあって、真田も気にかけてくれているのだが。
けれどチケットを贈ったのは何もこれだけが理由ではない。
ナマエが何故こんな少し強引な事をしたのかと言えば至極単純、真田弦一郎というクラスメイトの事が好きだからだ。
恋愛感情としての好き、かどうかは今だ本人もよく分かってはいなかったが、根底にあったのは喜んで欲しいとか、あわよくばこれをきっかけに仲良くなりたいだとか、そんな事だった。
そんな事のために、両親に頼み込んで実家が経営してる店の手伝いをして何とかチケットを買ってもらったのだ。貰い物だなんだは素直に受け取ってもらうための嘘。
だから、渡せて良かったと息を吐く。
思春期の中学生的には、クリスマスプレゼントを渡せたというそれだけでもう、満足だったのだ。
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部活終わりの部室、部活動ユニフォームから制服に着替えている真田の隣で、同じように着替えていた柳蓮二はふと思い出したように声をかけた。
「そうだ、弦一郎。お前のクラスメイトのナマエから、チケットは受け取ったのか?」
「あぁ、確かに日頃の例とクリスマスプレゼントというので受け取ったが.......何故それを蓮二が知っている」
柳とナマエに接点らしい接点はなかったはずだが、と真田が首を傾げる様子に柳は何故か微笑ましいと言わんばかりの表情を浮かべた。
「ナマエの自宅はカフェを経営しているらしくてな、この間たまたま入ったらその手伝いをしているナマエに会って少し話したんだ
なんでも、お前にどうしてもクリスマスプレゼントを贈りたいらしく、家の手伝いをすることでそのチケットを買ってもらう約束をしたらしい。お前と仲良くなりたいんだそうだ」
目を開いて、今朝貰ったばかりのチケットに視線を落とす。
印刷されたうさいぬが、妙に愛らしく笑っていて、ふと真田の脳裏にナマエの笑顔が浮かんだ。
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まだ人もまばらな朝の教室。
登校したナマエが席に着くと、見計らったように頭上に影が落ちた。
「おはよう、ナマエ」
「うん?おはよう真田くん」
何か用でもあるのだろうか、ときょとりと首を傾げるナマエに、真田は口を開いた。
「次の日曜は、空いているか」
「え.......う、ん。空いてる、けど」
突拍子のない質問にこくりと頷く。その答えに満足したのかそうか!と安堵したように息を吐くと、それから見慣れたパステルカラーのチケットを2枚差し出して得意げに笑った。
「一緒に行ってくれるだろうか」
差し出されたチケットのうちの1枚を、受け取って満面の笑みでナマエは返事を口にした。
後日、携帯のトーク画面に送られたうさいぬの着ぐるみと共に楽しげに笑う2人の写真を眺めながら、柳は良かったなと微笑んだ。