2021バレンタイン企画
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「あ、村正、マスターおかえり!」
レイシフトから帰還したマスターと村正の2人に、ナマエがパタパタと尻尾を振りながら駆け寄った。
「おう、ただいま」
出迎えてくれたナマエ頭を、村正の無骨の手がわしゃわしゃと勢いよく撫でると、それと連動するようにナマエの尻尾も勢いよく左右に揺れている。
「あれ、村正とナマエってそんな仲良かったっけ?」
ふと疑問を覚えて首を傾げたマスターに、村正はあぁ、と笑った。
「まぁ、色々合ってな」
な、ナマエ?と笑いかける村正に、ナマエもへらりと笑い返した。
それは2月某日の出来事だった。
村正は厳しい頑固者だと思われがちだ。というか確かにそういう一面もあるのだが、その根っこは存外に世話焼き気質である。
依代にした人間のせいもあるのだろうが、村正自身もやはり生前に多くの弟子をとったりしていたし、若者のその日の飯を心配してくれるくらいにはやはり面倒見が良かった。
そんな村正だからこそ、背後の気配を放っておけずに小さく息を吐くと後ろを振り返った。
「儂に何かご用向きか?」
「っ!」
突然かけられた声にびくりと影が揺れると、壁の死角からおずおずと青年が顔を出した。
その青年の頭でピクピクと動く狼の耳に、村正はお、と目を見開いた。
村正は青年の話をマスターから聞いたことがあったのだ。
確か無辜の怪物である人狼、そう呼ばれる同じカルデアで戦うサーヴァントの1人、名前はナマエといったか。
村正がカルデアに呼ばれた当初に、全員の前で紹介された時に1度、それからはすれ違う程度で交流らしい交流をした記憶はなかったが。
「あの……これ……」
良かったら、とそんなナマエからおずおずと差し出されたそれは、丁寧にラッピングされた袋詰めの手製らしいチョコ菓子だった。
「お、バレンタインか?」
先程マスターからもチョコを貰った身である村正は、すぐにナマエからの贈り物が何であるか分かったが、けれどそれがナマエから渡されたということに首を傾げた。
他の国ではどうかは知らないが、村正の知るバレンタインは女性が男性にチョコを贈るものだったからである。まぁ、マスターは除くが。
ナマエは村正の疑問に、ええと、口を開いた。
「おれ、ここに来てからいっぱい優しくしてもらって、いっぱい仲良くしてもらって、だから、だからね」
つっかえつっかえながら、けれど必死に言葉を探している様子に、村正は急かすことをせずにその言葉の続きを待った。
「だから、毎年お礼にって、みんなにチョコ渡してて……
それで、あの、村正さんとも、もっと仲良く、なりたいなって」
そう言ってこちらを見るナマエはどこか不安そうだ。
そんなナマエの様子に、村正は袋を開けると中のチョコ菓子を1つ口に放り込んだ。
「うん、美味ぇじゃねぇか!ありがとうな」
カラリと笑って、ナマエの頭を撫でる。
「えへへ、良かったぁ」
へにゃりと笑ったナマエの尻尾がブンブンと左右に勢いよく揺れる。けれどその尻尾とは反対にどこか遠慮気味に、自身を撫ぜる村正の手に頭をもっとと押し付けた。
その瞬間、村正の中の父性というか爺力というか何かよく分からない何かが、特大の音を立てて爆発した。
これが後の、バレンタインジジ孫事変である。