特殊リクエスト企画
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ぐぅっと漏れる唸り声。
かれこれ30分近く、男は店の前でそうして1つの品物を手に取っては戻しを繰り返している。
「兄さん、冷やかしなら帰っておくれ」
呆れたような、迷惑そうな店主の声に、とうとう男は財布の口を開いた。
「……買っちゃった」
男、ナマエが散々迷って買ったのはとある薬だった。
帰宅し、改めて薬袋から取り出した錠剤タイプのそれをまじまじと眺める。
決して安い買い物ではなかったが、これで1つ悩みが解決するのであれば安いもの。
番である土方歳三にバレたら、ちょっと厄介かもしれないが。
そんな事を考えていたせいか、誰かが扉を開けた音に気づくことが出来なかった。
「何だそりゃ」
「ひっ、土方さっ!!」
急にかけられた声に驚き慌てて後ろを振り返れば、いつの間に帰って来ていたのか、自身の番である土方がこちらを見下ろしたっていた。
「今日は新撰組で稽古があるから遅くなるって……」
「沖田の調子が良かったから任せて来た。と、それよりもだ」
ぐっと伸ばされた手が、あっと言う間にナマエの手にあった薬袋を取ると、それが何か分かったらしい土方のただでさえ厳つい顔が、鬼の副長の渾名に相応しく、みるみる眉間に皺を寄せていく様に、ひっと喉から声が漏れてしまう。
「俺という番がいながら、抑制剤買う意味がどこにある」
そう、ナマエが悩み買ったのは、ヒート、所謂発情期を抑える為の抑制剤であった。
Ωの人種は大体10代後半頃からヒートと呼ばる発情期が訪れ始める。
約3ヶ月に1度の頻度、1週間程強いフェロモンを放ち、βやαに欲情してしまうため外出もままならなくなってしまう。
そのヒートを抑えるために作られたのが抑制剤で、番を持たないΩには殆ど必須道具だ。
けれどナマエには土方という番がいる。
番がいるΩは番のαに相手をして貰えるので、抑制剤は必要ないのだ。
必要ないのだが、ナマエは散々悩んだ末に番の土方に黙って抑制剤を買っていた。
その事に不機嫌さを隠さない土方は、ナマエの返答次第によっては大変なことになるだろう。
ナマエもその事を察して、あわあわと身振り手振りを交え口を開いた。
「い、いやだって!土方さん俺のヒート度に相手してたら大変じゃん!!ネスティングで毎回毎回土方さんの羽織とか勝手に俺巣にしちゃうし!それに……」
そこまで言って先をもごつかせてしまうナマエに、それでも黙って土方は先を促す。
「それに……土方さんは、新撰組の副長、だから……毎回俺のヒートに付き合わせるのは……その、疲れるだろうし……迷惑、なんじゃ……」
いっそ泣いてしまいそうなナマエの声音と顔色に、土方は深く、それはもう深く息を吐く。
「誰がいつ、迷惑だなんて言った」
そんなこと、土方の口から1度だって聞いたことはないし、そんなような態度すら出されたことはない。
けれど、新撰組の副長という役職が決して暇なものではないこともナマエは知っていた。
その土方に定期的に自身のヒートに付き合わせてしまっているということを、ナマエはだいぶ前から気にしていたのだ。
土方にとって自分の存在が重しになってしまってやいないかと悩んだ末に、ナマエは抑制剤を手にしてしまった。
土方の男らしい、剣を振るう硬い掌がするりとナマエの頬を撫でると、触れるだけの口付けが落とされる。
「手前の番が手前の着物から私物から必死に掻き集めて求めてくるのを、嫌に思う男が何処にいやがる」
「っ!」
射抜くように真っ直ぐに向けられた真剣な言葉と眼差しに、ナマエの顔が一瞬で赤くなる。
こういう男前なところがずるいと思ってしまう。
「それに、好いた奴の相手をした所で次の日動けなくなるようヤワな体力の奴が、新撰組の副長なんざ務まるわけねぇだろう」
そう言って土方はぐいっとナマエを抱き上げると、そのままスタスタと歩き出す。
「あ、あの、土方さん!?」
一切の迷いなく向かう先は寝室。
必死にまだ夕方だとか、帰ってきたばかりで疲れてるでしょ!と呼びかけるが土方の足が止まることはない。
スパンと勢いよく開けた襖、敷かれた布団の上へ少し乱雑に放り投げられる。
「とりあえずは、俺に黙って抑制剤なんて買いやがった仕置きが必要だな?」
覆いかぶさった土方の目がぎらりと光って、ナマエは明日の朝は盛大に腰を痛めているであろう事を悟ったのであった。