特殊リクエスト企画
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ジャミル・バイパーは、生まれながらにしてアジーム家に仕える従者であることが定められていた。
主であるカリムに勝ちを譲り、勉強や運動も目立たずカリムを引き立てるように調整し、何一つとて自分の思い通りに出来ない。
両親はそれこそを良しとし、カリムは何も気づかず能天気に笑っている。その度に何度舌打ちがでそうになったか。
けれどそんなジャミルにも、唯一心を許している人物がいる。
名前を「ナマエ・アジーム」アジーム家の元長男だ。
元、とつくのは彼が跡目争いで片足を失い、早々に世継ぎの座を降りた彼は父に頼み込み、カリムを長男にしてしまったからだ。
ナマエはジャミルがカリムよりずっと優秀であり、それを隠していることを、隠すよう躾られていることを分かっていた。
分かっていて、自分は主では無いのだから、自分の前では思い切りやっていいのだと笑ってくれる。いつだってジャミルの欲しい言葉をくれるのは、ナマエだった。
それが例え、己が保身の為であったとしても。
そんなナマエには、秘密がある。
それはナマエがΩであること。
この世には第2の性がある。優秀でエリート体質であるα性、数も多く一般的なβ性、そして男女関係無く妊娠する事ができヒートと呼ばれる発情期のあるΩ性。
Ωは発情期による周囲とのトラブル等、冷遇され蔑まれることが多い。
それ故に、ナマエは自身がΩであることを偽っていた。
けれど何も、第2の性を偽っているのはナマエだけではない。
「……ジャミル、お前、αだったのか」
驚愕に目を見開くナマエに、ジャミルはうっそりと笑みを浮かべた。
ナマエが自分の第2の性を隠していたように、ジャミルも自身の第2の性をβだと偽っていたのだ。
従者であるはずのジャミルが己が使える主より優秀なαであることは、隠すべきことだった。
けれどその必要ももう無い。
オーバーブロットした姿を、世界中に配信されてしまった今、もうジャミルが恐れることは何も無い。もう我慢せずに、好きに生きるのだと決めたのだ。
本当はカリムを追い出したその後、ナマエを囲い込むつもりだったのだが、何処ぞの人魚共が余計なことをしてくれたせいで、全部がおじゃんになってしまったのだが、けれどそれも今はどうでもいい。
ようやっと、愛するΩを、ナマエを自室のベッドへ押し倒している今この状況下では些細なことだ。
笑みを浮かべるジャミルとは対照的にナマエは顔を青くさせ、怯えている。
それもそうだろう、Ωはαに項を噛まれてしまえば拒否権無しにそれだけで番にされてしまう。
そうなってしまえば最後、Ωはそのα無しでは居られなくなってしまう。
それだけはどうしても避けたかった。
けれどジャミルは、ナマエのそんな考えさせえも見透かしてくつりと喉を鳴らす。
「俺がαだから、Ωである貴方を押し倒したと、そう、思っているんだろう」
震える声でナマエが違うの?と問う。
αにとってΩは性の対象でしかない。
けれどジャミルにとってのナマエは違う。
「俺は、αだとかΩだとか関係なく、貴方自身を愛している。
貴方が信じられないと言うなら、心底不快だがアーシェングロットのユニーク魔法を使ってもいい」
ナマエの頬をするりと撫でる。
ビクリと反応する様の、何と愛らしいことか!
「俺は貴方を、αとしての本能でなく、一人の男としての理性で番にする」
もう好きにすると、決めたんだ。
片足だけでなく、他も失ってしまうことに怯えてるのなら、その脅かす全てから守って見せよう。
食事も風呂も世話をしよう。
欲しいものは全て与えよう。
何度でも愛を囁いて、ドロドロになるまで依存して、もうジャミル無しでは生きられぬようにしよう。
ナマエが自らジャミルに項を差し出し、番にしてくれと乞い願うように。
ジャミルの瞳が、熱を抱いてドロリと歪んだ。