2020バレンタイン企画
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
吾輩はテディベアである。名前もある。ナマエである。
その自己紹介の通り、ナマエはイギリス生まれイギリス育ち、とある魔術師一家の子供達に代々受け継がれてきたテディベアだ。
もっともただのテディベアではない。
否、最初はただの何の変哲もないテディベアだったのだが、何世代と受け継がれ、大事に扱われてきたナマエにはいつしか魂が宿っていた。日本で言うところの所謂〝 付喪神〟というやつである。
そんなちょっとだけ特別なナマエは現在、カルデアでひっそりと人気の存在と化していた。
ナマエの現所有者である子供、子供と言ってももう20代も後半のいい大人なのだが、その彼女がカルデアの職員になる折に、何となく手放したがかったナマエをカルデアに持ち込んだのだが、外界から遮断された職場、人理修復というプレッシャー、圧倒的な激務による精神肉体共に疲労困憊なカルデア職員達の心にナマエの存在がクリティカルヒット。
一緒に寝ると癒される、何となくそばに居ると落ち着く等、仮眠の際にはプチ争奪戦が行われる程の人気となっていた。
そんな人気者のナマエは現在、とある男の腕に抱かれていた。
抱かれているといってもテディベアなので、抱き枕的な意味なのだが。
サラサラと流れる金髪に、整った顔立ち。
『えぇっと……この人確か王様の……ギ、ギル……ギル亀さん?』
亀ではなく、賢王またの名をセルフ社畜王ギルガメッシュである。
ナマエの頭の中には文字通り綿が詰まっているだけなので、覚え間違えも許して欲しい。
普段のナマエの定位置は、だいたい休憩室の机の上なのだが、気が付いたらふらりとやって来たギルガメッシュに頭を鷲掴みにされると、そのまま彼の自室へと連れ込まれ、あれよあれよという間にベッドに潜り込んだ彼の腕の中という現状が出来上がっていた。
『ぬいぐるみだから痛くないけど、鷲掴みにするなんて乱暴だぞ!』
内心ブーブーと文句を言っていたが、ふとナマエの硝子玉製の目が、ギルガメッシュの顔を写す。
整った顔立ちはよくよく見ればやつれていて、今は閉じられている紅玉の瞳の下には、薄らと隈が出来ていた。
こんな疲れた顔を見せられては、怒りに膨らんだ気持ちも沈んでしまうというもの。
元来ナマエは根の優しい、癒し系テディベアなのだ。
どうすればこの疲れた王様を癒すことが出来るのか、綿の詰まった頭をぐるぐると悩ませる。
そうして出た考えに、名案だと顔を輝かせた。
『疲れた時には甘い物だよねぇ!もうすぐバレンタインだし、美味しくて甘いチョコレイトの夢が見れますように』
そう心の中で念じれば、ギルガメッシュの寝顔がどことなく穏やかなものになったような気がして、くふくふと笑みが漏れた。
目が覚める。
夢を見た気がする。サーヴァントは夢を見ないはずだがと、眉をひそめた。
けれど確かに見たのは、甘いチョコレートを食べる夢。それは久方ぶりにギルガメッシュに穏やかな眠りを与えていた。
マスターや1部のサーヴァント達が話しているバレンタインの影響かと思ったが、それにしては妙な夢だったように感じる。
そこでふと、己がテディベアを抱いていることに気が付いた。
どうやら疲れからか、無意識的に持ってきていたらしい。じっとその顔を見つめれば、硝子玉の目がこちらを見つめ返す。何となくその顔が、笑みを浮かべている気がしないでもないが。
「……いや、まさかな」
ふと思い浮かんだ考えを、かぶりを振って隅に追いやる。
さっさと起き上がってしまおう。このカルデアは人理修復の真っ最中、やることは山ほどあるのだ。
テディベアを元に戻す為鷲掴もうとして、その手を止めた。
「あれ、ギルガメッシュ王……だよね……」
「う、うん。けどあの、腕に抱えてるのって」
ひそひそと不思議そうに話すカルデア職員、その視線の先にはカルデアの廊下を行く賢王ギルガメッシュ、その腕に抱えられているのはカルデア職員のアイドル、テディベアのナマエ。
その妙な組み合わせに、首を捻らせた人達が多数いたとかなんとか。
ついでに言うとそれから暫くして、ギルガメッシュがナマエを抱える姿が度々目撃されたり、他のサーヴァント達もナマエと一緒に寝たり抱えたりするようになるのだが、それはまだ少し先の話である。