2020バレンタイン企画

ナマエ

本棚全体の夢小説設定
主に男主
原作改変等有り
ナマエ


「よ、よろしいのですか?私がこのような物を頂いてしまって……」

キラキラと瞳を輝かせ尋ねるニトクリスに、ナマエは笑って頷いた。

2月14日バレンタインデー

ニトクリスの掌には、甘い香りを漂わせる綺麗な小箱。
中身は勿論ナマエ手製のチョコ菓子である。

ナマエは今でこそファラオオジマンディアスの兄として、また人理を守るサーヴァントとしてカルデアに存在している訳だが、元々はただの一般的な日本人である。
そこには転生だとか、トリップだとか、それはもう複雑な事情が絡んでくるのだが今は割愛。
そんな根元は庶民的思考の持ち主である彼にとって、カルデアにやってきて漸く数百年、数千年ぶりのバレンタイン。
これも良い機会だろう、せっかくカルデアにいるのだからと同郷のサーヴァント達にチョコを贈ろうかと思い今に至ったわけである。

「このような日にナマエ様からこのような物をいただけるとは、光栄の極みです。
……実は私もナマエ様にバレンタインの品物を用意していまして」

そう言って手渡されたのは、綺麗にラッピングされたチョコレート。こちらもニトクリスの手作りだろう。
彼女はこうしてよく、好意や尊敬をナマエに伝えてくれている。それが嬉しくもあると同時に元はただの一般人で、ファラオでもない自分には勿体ないとも思ってしまうのだが、それを口にする度にニトクリスは「ナマエ様はファラオでこそありませんでしたが、国を支えた偉大な方に変わりありません!」と強く否定している。

しかもそれはニトクリスだけではなく、クレオパトラやイスカンダルも同様だった。

「クレオパトラのお眼鏡にかなう美しさかどうかは分からないけど、味は保証するからカエサル殿と一緒にお食べ」

そうチョコ菓子を手渡せば、クレオパトラは美しい顔を喜色で染めて

ナマエ様からのいただく物は、いつも相手のことを想って贈ってくれたのだということが伝わって、とても美しいですわ
だから私も僭越ながら、ナマエ様にこちらを……」

クレオパトラから渡されたのは、手持ちの籠に詰められた瑞々しい果実。
それは何かと忙しくしているナマエの身体を想ってのクレオパトラからの贈り物。
例えエーテルの体だとしても、その優しさこそが嬉しいのだと笑みが漏れた。


「其方が歴代のファラオ達にバレンタインのチョコを渡してると聞いてな!」

「あぁ、勿論君の分もあるよ。
小さい君と、孔明殿の分もあるから良かったら皆でお食べ」

イスカンダルにもチョコ菓子を手渡せば、彼は驚いたように目を見開いて、直ぐに嬉しそうに頬を弛める。

「まさかと思ったが、余の分もあるとは……いやはや、これは中々に嬉しいな!
いや、実は余も贈りたいものがあったのだ。日頃何かと世話になっているからな」

そこそこの質量を伴って贈られたのは、見るからに上等そうな酒瓶だった。
たまには兄弟で酒を酌み交わすのも良いだろう。そう言って豪快に笑った彼に礼をいえば、たぷんと中の酒が揺れた。









「これはまた随分と……まぁ、我が兄が敬われ慕われるは当然のことか」

配ったチョコ菓子の代わりに、ナマエの腕の中にはファラオ達からの贈り物が抱えられていて、何故かオジマンディアスが得意気に笑っていた。

「バレンタインデーだから皆から貰ったのだけれど、お前も一緒にどうかと思ってね……」

ちゃぷりと貰った酒瓶を傾ければ、オジマンディアスは盃を差し出してそれに応えた。
とぷとぷとその盃に酒を注げぐ。

「してナマエ、我が兄よ。余にもそのチョコ菓子を献上することを赦すぞ?」

自分の分もチョコ菓子がある事を分かっているのだろう、ゆるりと笑みを浮かべているオジマンディアスに望み通りにチョコ菓子を渡すと、遅いぞと鼻を鳴らされる。存外この弟は、兄からのバレンタインの贈り物を楽しみにしていてくれたらしい。

「して、貴様は余に何を欲する」

「へ?」

間抜けな声が漏れた。
オジマンディアスの黄金の目がこちらを見つめるだけで、何も言わない。
オジマンディアスからの、バレンタインのお返しということかのだろうか。

「……じゃあ、皆でこうしてお酒を呑んで、話をしたいな
それぞれの時代を生きた、偉大なファラオたちの話を聞きたい」

こんな奇跡のような機会、きっともう訪れないのだろうから。

「フハハ!我が兄ながら強欲な事だ。
だが良い、余が赦す。ナマエはそれで良い」

ナマエは妙なところで遠慮をするくせに、自分だけでなく他のファラオとも話がしたいと欲する。
本来ならば不敬と処断されてもおかしくない願いは、ナマエだからこそ赦され叶えられることなのに、本人がそれを特別なのだと気づいていないのだから困ったものだ。

だか、そんな兄を赦し導くのは、弟でありファラオである自分の役目なのだと笑う。


「直ぐに宴を開く!楽しみにするが良い」

「いや直ぐにじゃなくて……今は久々に兄弟水入らずを楽しみたいのだけど」

そうか、とオジマンディアスの顔が満足気に緩む。
このファラオ、ただ単に兄に甘いだけなのかもしれない。

こうしてナマエにとって数百、数千年ぶりのバレンタインは、穏やかに幕を閉じたのだった。






後日オジマンディアス主催の、ファラオによるファラオの宴が開催され、大いに盛り上がったとか何とか。

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