2020バレンタイン企画
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カルデアのそこかしこから、甘い香りが漂う。
花の甘さとは違う、人工的な香りに土方はひくりと鼻を動かした。
自分はこの匂いを知っている。
生前1度だけ、自分はこの甘さを味わったことがあった。
梅の花が蕾を膨らませていた季節だった。
「ちょこれいと、という何でも西洋のお菓子らしいですよ」
月見酒を嗜んでいた土方の目の前に、ずいっと差し出された茶色い物。
人工的な甘い香りのそれにナマエ楽しそうに笑った。
「とても高価で珍しいものだそうで。先程巡回のおりに助けた方が偶然貿易商の方だったらしく、お礼にと分けて貰ったんですよ」
そう聞いても土方はふんと鼻を鳴らすだけだった。
確かに西洋のものは何でも高価で価値がある。
けれど土方にとっては珍しいちょこれいとなるものより、どうせくれるなら物ならば沢庵の方が良い。
ナマエもそれは分かっていたが、普段手に入らない物を見せてあげたい、共有したいと感じるのはその想い故なのか。
「隊士全員分は無いので、みんなの分は別にお饅頭を用意しておきました。
これは2人でいただきましょう」
知らぬ西洋の菓子より饅頭の方がいいと思ったが、ナマエが珍しくはしゃいでいる様子だったので土方は黙って付き合うことにした。
それにちょこれいと味が気にならない訳でもない。
放り込んだちょこれいとはその香り以上の甘さで持って、ドロリと口の中から溶けていく。
「……甘ぇ」
「和菓子とはまた違った甘さですね」
1口食べて、土方は眉根を寄せるとグビリと酒を煽る。
その様子にクスクスと笑を零して、ナマエは反対にまた1つちょこを摘んだ。
ふと、ナマエの口の端にちょこの欠片が付いているのが見て取れて、何の気はなしにそれを指で拭ってやるとそのままそれを舐めとった。
「……歳さん、それ気軽に他の人にやったら駄目ですからね」
ぐっと恨めしげな顔でこちらを見つめるナマエの言葉に、ハンっと鼻で笑ってやった。
「お前以外にやるわけねぇだろう」
「……っ!!!」
同じ誠の文字を背負う者で、昔馴染みで、親友で、それ以外に深い意味は無い。無いと分かっているのだが、頭を抱えてしまう。
土方はその時、ナマエの耳が赤く染っているのを見て、なぜだかとても気分が良くなったことを、ふと思い出す。
今土方の手の中にあるのは、丁寧なラッピングのされたちょこれーと。
マスターや女性達、それから1部の男性達が今朝からバレンタイデーだのなんだのと騒いでいたその名残り。
1口それを放り込めば、変わらずドロリと甘さが口の中で溶けていく。
あぁ、けれどこの甘さは、自分一人で食べるには随分と甘すぎる。
空っぽの隣が、妙に肌寒く感じられた。