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早朝、朝日が昇る少し前
寒さと眠気に襲われながら、ナマエは教会の扉を開けた。
現在、この冬木の地で"聖杯戦争"が行われている。
聖杯戦争、それは選ばれた魔術師達がそれぞれマスターとして過去の英霊であるサーヴァントを召喚し、願いの叶える願望器、聖杯を巡り争うものだった。
その聖杯戦争において監督役を務めている言峰教会。
魔術の素質が薄く、早々に教会の後継者で無くなっているほぼほぼ一般人のナマエにとっては、あまり実感の湧かない出来事である。
けれど父であり現言峰教会の神父、言峰璃正はもちろんながら、弟である言峰綺礼はその手に令呪が表れたことにより、マスターとしてアサシンのサーヴァントを使役し、師でありアーチャーのサーヴァントのマスターである遠坂時臣のサポート役として、この聖杯戦争に参加していた。
そんな身内2人が忙しくしている中、自分1人が我関せずに暇を持て余す理由にはいかず、できる範囲で教会の手伝いをしていた。
まだ誰もいない早朝からの教会の清掃も、その一環だ。
換気のために窓を開けようとして、ナマエは動きを止めた。否、動くことが出来なかった。
ふと現れた、背後に感じる重圧と圧倒的な存在感。
「王たるこの我に、いつまで背を向けているつもりだ、雑種」
ゾクリとかけられた声は、聞きなじみのないもの。
震える体を叱責して、恐る恐る振り返れば聖堂の長椅子に男が我が物顔で座っていた。
艶やかな金髪に宝石の様な紅眼をもつ美丈夫。ただし放つオーラや威圧感は人のそれでは無い。
思わず喉から引き攣った音が漏れれば、男が嘲笑うかのように鼻を鳴らす。
「ハッ、あれほど綺礼の奴が常々口にしている存在が、どのような者かと見に来てみれば、ただの一般人ではないか」
「……綺礼?」
この見知らぬ男の口から発せられた弟の名前に、ナマエは目を見開いた。
「貴様は奴についてどう思っている」
「どうって……真面目で、ちょっと変わってるけどいい弟だと思いますけど……」
「戯け。そういう事を聞いているのではない」
ナマエからすれば唐突で訳の分からぬ問いに眉根を寄せつつ答えれば、返ってきたのは不満。
一体この人は何が聞きたいのか。と困惑に頭を悩ませれば、男は呆れたような目付きで再度口を開いた。
「貴様は奴のあの性質についてどう思っているのかと聞いているのだ」
性質、その言葉に暫し考えれば思いついたのは弟である綺礼の"とある悩み"であった。
「人が美しいと思うものが美しいと思えない、人の不幸が好き……ってやつですか」
そう言って伺い見れば、男は何も言わない。恐らくその事で合っているということなのだろう。
しかしナマエにとってその事について別段思う事も無い。
けれど答えなければどうなるか分からないと感じさせる重圧が男にはある。ナマエは何故こんなことに、と自分の不運を呪いながら渋々と口を開いた。
「別に、どうとも思っていないですよ。
そういうのが好きなんだなぁ……位にしか」
そう答えるも、男は続きを促すように黙ったまま。
「昼ドラって見たことあります?
あれって内容が三角関係だったり、不倫だったり大体が泥沼状態なんですけど、人の不幸は蜜の味って言うんですかね、主婦の人とかにすごい人気なんですよ。
だから別に、そういう趣味趣向を持ってるのは綺礼だけじゃないと思うし……」
綺礼と主婦とを同等に語るナマエに、男はクツリと喉を鳴らす。
「というかそもそも、聖職者だからって好きなことを制限されるはどうかと……
見たことも会ったこともない神様のためにそこまでする必要ってあるんですか」
「クハハハハッ!雑種貴様、言うではないか」
男の笑い声が聖堂に響く。
何がツボに入ったのか全くもって理解の出来ていないナマエはただ困惑を重ねるのみ。
ただの一般人でありながら、神という存在に対して己を曲げず貫こうというさまは厚顔にもほどがある。
けれどそれは男にとっては、実に愉快なものであった。
尚も笑い続ける男とただ困惑するしかないナマエ
早く逃げたいと考えていると、勢いよく協会の扉が開いた。
「そこで何をしている、"ギルガメッシュ"」
「綺礼!」
噂をすればなんとやらと言うのか、現れた弟の綺礼にナマエは今日ほど感謝した日はなかった。
「アサシンを使ったか……まぁ、良い
貴様の兄には愉しませてもらったぞ、綺礼」
駆けつけた綺礼は、兄のナマエを守るように背にしてギルガメッシュを睨みつける。
その様子にも、男、ギルガメッシュは愉快気に目を細めた。
「その無礼、特に許す。感謝しろよ、綺礼」
その瞬間、ギルガメッシュは一瞬にして姿を消した。
「無事ですか、兄さん
何か彼奴にされてはいませんか」
そこから瞬時に始まる綺礼の身体チェックと確認に、怒涛の展開に1人ついていけていないナマエはそれでも無事だという意思で頷けば、安心したように抱きしめられた。
弟の厚い胸板に顔を埋めながら、ナマエは疲れきった脳みそで、もうあの男には出くわしませんようにと、心の底から願ったのだ。