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「イライざんとえっぢなごどがじだいよぉ〜!!!」
ドンッと空になったジョッキを机に力強く置き、男はそう吠えた。
男の名前はナマエ。この荘園でハンターと命懸けな追いかけっこの日々を過ごしているサバイバーの1人である。
「すればいいじゃないか、恋人同士なんだろう?」
ナマエの真向かいで優雅にワインを傾けながら、一等航海士ホセ・バーデンが発した言葉に、ナマエはぐっと顔を歪めた。
ホセの言う通り、ナマエと占い師イライ・クラークは同じ男同士でありながら、ついひと月程前から恋人関係にあった。
勿論、ナマエの猛アタックの末にやっとこさ結ばれた関係である。
何度自分はこ男の恋愛相談にのってやった事かと、現在進行形でホセは思う。
「イライさん性欲薄そうじゃないですかぁ!というかあの人性欲とかあるの!?」
半泣きでそう訴えるナマエに、ホセは呆れたようにため息を吐く。
このナマエという男は、以前から些か神聖視している節がある。イライだって少し特別な能力があるだけで、それ以外は至って普通のまだ年若い成人男性なのだ。性欲がないわけが無い。
けれどナマエはポツリと言葉を零し、俯いてしまう。
「おれとキスするのとか……その……え、えっちな事するの……嫌かも……しれないじゃないですか……」
不安げに揺れるナマエのらしくない言葉に、ホセは片眉を吊り上げる。
「付き合っているのにかい?」
「……だっておれ、イライさんに婚約者いるの知ってて、それで今、会えないこととか、そういうのダシに利用して付き合ってもらったんですよ?最低じゃん……」
確かにイライには婚約者がいる。何度目かの告白のおりに、そう言われて断られたことがあったのだ。
つまりナマエは、イライが自分と付き合ってくれているのは恋愛感情から来る好意ではなく、同情や一時の気の迷いのようなものだと思っているのだ。
「イライは他に好きな人がいるのに、君と付き合うような不誠実なやつなのかい?」
「イライさんは誠実の塊ですぅ!」
「分かってるじゃないか」
そう言ってワインに口付けるホセに、ナマエはぶーたれる。
分かっている。分かっているのだ。
イライという男はホセが言うような事をする男ではない。
いつも彼はきちんとした態度と姿勢でナマエに向き合い、そして応えてくれた。
それでもどうしても、イライの荘園に来る前の出来事や、婚約者の事、それらに対する劣等感や罪悪感、嫉妬に不安といういくつもの醜い感情を消すことが出来ないままでいる。そしてそんなものを抱え続ける自分に対する嫌悪感も。
それらはぐるぐるとナマエの胸に渦巻いて酷い悪循環を起こしている。
「ああ〜〜!!もうやけ酒だバカ〜〜!!!」
雄叫びを上げ勢いよく酒を煽る。
これはもう酔い潰れるまでコースかなと、ホセはため息を吐いて自身もワインに口をつけた。
「やぁ、迎えに来たのか?」
静かに開いたドアへそう声をかける。
イライはゆるりと眉を下げた。
不思議な力を持つ彼の目が、すっかり酔い潰れ眠ってしまった恋人の姿を見て迎えに来たのだろう。
そっとナマエの頬を撫ぜるその手つきや浮かべた笑みは、どうしようもない愛しさを浮かべている。
これで気づかないのはナマエが相当鈍感なのか、はたまた普段はイライが隠しているだけなのか。
「ナマエに付き合ってくれて、ありがとう」
そう言ってナマエを抱きかかえたイライに、ホセは構わないさと首を振った。
同じ荘園でハンターに追われる者同士、恋愛相談に乗ってやるくらいの情は持っているつもりだ。
「次に飲む酒は、お祝いの酒で頼むよ。
特別に多少の惚気も許容するとナマエに伝えておいてくれ」
「そうだね、その時は私も参加させてもらおうかな」
そう言ってイライは笑った。
見送った2人の姿に、ホセはゆるりと笑みを浮かべる。ナマエの悩みが解決する日も近いだろう。
きっとその日に飲む酒は、今より格別に美味いはずだから。