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ラギーは頭を抱えていた。
他寮に比べてデカくてゴツイに定評があるサバナクローの寮生たちが、ぐるりと1つの籠を取り囲んで見下ろしている様子は傍から見れば異様と言えた。
「……この事、レオナさんは」
「まだ知らない、はず……」
ラギーは自分は器用な方だと自信があるし、大抵の事は上手く切り抜けて今まで何とかやってきた。というかそうでなければラギーの地元では生き抜けない。
けれど目の前に突き付けられた問題に、ラギーはこの学園に入学して以来1番と言っていいほど焦っていた。
そしてそれは、寮生達も同じであった。
ラギーが籠の中にそっと手を伸ばす。
敷かれたタオルの上に丸まった、ふわふわとしたクリーム色。
「……全く、何やってんスかね、この人は」
籠の中のクリーム色がもぞりと動いて、小さな三角耳がぴんっと立つ。
「ねぇ、ナマエさん」
「ぴゃあん」
籠の中で甲高い鳴き声が、なぁに?と言うように上がる。
ナマエさん、と呼ばれたクリーム色の正体。それは生後1ヶ月程の子猫だった。
まぁ、このNRCでサバナクロー寮生に頭抱えながら囲まれてる子猫がただの子猫であるはずがないのだが。
「レオナさんになんて言うか」
あの人にいつまでも隠し通せるハズないし、ならばせめて機嫌の良い時に話したい、出来れば食後辺りとか、とラギーが思考を飛ばしている時だった。
普段ならばこの時間は植物園か部屋で昼寝をしているはずの獅子の影がゆらりと落ちて、寮生達の背筋が一斉に伸びた。
「おい、ラギー」なんて常より低い声に呼ばれて、はい!とこれまた常より素早く返事をする。
「説明しろ」
一言。
そのたった一言が驚く程重く空気を沈ませた。
バレている。いや、最初から隠し通せる確率など皆無に等しかったが、それでもタイミングというものがあったはずだ、とラギーは内心で叫んだ。
けれどもうこうなっては変に誤魔化すのも、黙り続ける事も出来ない。
「ぴゃあ」
パチリとまん丸の目を開けた子猫、もといナマエだけが何も知らずに短い尻尾をふりふり揺らしていた。
「ほんっっと、心臓に悪い!!
後でナマエさんから迷惑料でも貰わないと割りに合わないっスよ!」
ギッ、自室のベッドに寝転がった1人と1匹、もといナマエを睨みつけながらラギーはそう吠えた。
当の本猫は寝転がったレオナのお腹へと果敢によじ登っている最中で、ラギーの話など全くもって聞いているように見られないが。
子猫、もといナマエは列記としたサバナクロー寮生で、本来の彼はイエネコの獣人だ。それが何故ただの子猫になってしまったのか。
ナマエは1年のジャックと同じ変身系のユニーク魔法を持っている。
同じといっても、ジャックはオオカミに変身する事ユニーク魔法だがナマエのそれは自身が頭に思い浮かべたものに変身するユニーク魔法。
こう並べられてナマエのユニーク魔法の方が色々変身できて便利な様に思えるがその分制約も多い。
変身するものを頭に思い浮かべる時は、見た目や構造をきちんと把握して細部まで頭の中で再現しなければならないし、自分とあまりにもかけ離れたものにはもなれない。
簡単に言えば、普段から見慣れているレオナや自身が深いルーツを持っている猫には変身できるが、関わりの少ない他寮の1年や架空の生き物であるドラゴンには変身できないのだが。
そしてそんなユニーク魔法を持っているナマエはサイエンス部に所属している。
まぁ、サイエンス部の名前が出た時点で察する人もいるだろうが、つまるところサイエンス部の好奇心から生まれた実験薬とナマエのユニーク魔法からなる事故の結果が現在の子猫の姿なのだ。
つまりはナマエの自業自得である。
これでもしもこうなってしまったのが他人のせいだったとしたら、と考えるだけでゾッとする。
そんな事になれば我らが寮長が何をするのか分かったものではない。
他の寮生がこうなったのなら苛立ち紛れの説教か、無視するだけで済むのだが。
ナマエに手を出された時のレオナ程恐ろしいものは無い。
まぁ、そんなバカはいないと信じたいが、断言できないのがこの学園の悲しいところだった。
「バカ猫」
そう呟いてナマエの薄桃色をした小さな鼻先をレオナが指で付いてやれば、子猫の体は簡単にぽてりと転んだ。
それに抗議するようにぶわりと逆立てられた毛さえ子猫特有の柔さでレオナはふんっと鼻を鳴らした。
「……夕飯は」
「おいおいラギー、この俺がこんな可哀想な姿になったナマエを放っておけると思うか?」
「はいはい、何か買ってきますよ。ちなみにお釣りは」
好きにしろ、の言葉と共に投げられた財布を受け止めて、ラギーは毎度!と笑いながら部屋を出た。
1人と1匹。
レオナの丁度胸の上でぽふりと体を丸めたナマエの顎下を擽るようにレオナの指が撫でる。
その指に連動するようにナマエが喉を鳴らしながら、小さな前足がふみふみとレオナの胸元で動く。
「ふっ、子猫らしく随分甘えたになっちまったなァ?」
「ンン〜」
くあり、と欠伸が1つ。
そこから覗く牙さえもレオナの爪の先程の大きさしかない。
「寝ちまえ」
頭から背中までゆっくりとナマエを撫でてやれば、その内に規則正しい寝息がレオナの耳に届いた。
呼吸の度に胸元で上下する、柔らかくて小さな熱源。
何度か撫でてやりながら、レオナも静かに目を閉じた。
「んぁ?」
射し込んだ朝日にナマエは目を開けた。
寝ぼけ眼に飛び込む見慣れた寝顔。
何故だかレオナの自室のベッドで、何故だかレオナの胸を枕にして眠っていたようだが全くもってナマエの記憶にない。
なんなら昨日の記憶が丸々飛んでいる気がする。
ぼんやりとした寝起きの頭を捻れども何も思い出せない。
「……まぁ、いっか」
そう一言呟いて、ナマエは再びレオナを枕に目を閉じたのだった。