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ジョーカーはピエロであり、サバイバーを追いかけるハンターである。
ジョーカーはその日、逃げ遅れてしまったサバイバーを追いかけていた。
他のサバイバー達はもう皆ゲートから逃げてしまっている。
3人逃げればこのゲームはサバイバーの勝ち。
つまるところ、この最後に残された1人のサバイバーは、勝利のために見捨てられたのだ。
それでも自分も脱出しようと必死に逃げる後ろ姿を追う。
ジョーカーにとってはもう既に負けが確定した試合だが、それでも全員逃がしてしまうのと、1人椅子に縛って飛ばすのとでは後者の方がまだマシだろう。
ジョーカーがとっとと捕まえてしまおうと、走り出そうとしたその時だった。
「あっ」
焦っていたせいか何なのか、小石にでもつまづいたのか、はたまた足が絡まったのかは知らないが、目の前でびたんっという擬音がつきそうなほど派手にサバイバーが転んだ。
そのあんまりな転び具合に、思わずジョーカーも立ち止まってしまう。
むくりと起き上がったサバイバーの顔がくしゃりと歪み、ひくりとひきつった音が喉から漏れる。
「う、うわぁぁんっっ!!」
堰を切ったようにポロポロと大粒の涙が頬を伝い、ずびずびと鼻がなっている。
ひどい泣き顔のその様子に、ジョーカーはぎょっと目を見開いた。
今まで幾度となくハンターとしてサバイバーを追いかけてきたが、皆怯えや恐怖を抱き叫び声を上げることはあっても、泣く、ということはなかった。
だからだろうか。
ジョーカーはわんわんと泣いているサバイバーの前にしゃがみこむと、ぽんっと手のひらをサバイバーに見せるかのように差し出す、そのままポンポンと動かしていけば、それはまるでサバイバーとジョーカーの間に、“透明な壁”があるかのようで。
急なジョーカーの行動に、サバイバーは泣くのも忘れてぽかりとその動きを見つめる。
その間抜けな顔に、ジョーカーは思わずくつりと喉を鳴らした。
軽いはずの小石が、まるで持ち上がらない重い石かのように。
壁の向こうに、無いはずのエスカレーターがあるかのように。
そうしてしばらく本来のピエロとしての動きを見せてやれば、サバイバーは泣いていたことなど嘘のように、満面の笑みでぱちぱちと手を叩いた。
「すごいね!おれ、初めて目の前でパントマイム見た!!」
それはずっと昔に向けられていた嘲笑でも、皮肉でもない。
心からの純粋な笑顔と賞賛。
気がつけばジョーカーは、飛ばしてしまうはずだった最後のサバイバーをハッチまで連れて来ていた。
「おれ、ナマエって言うの!
ありがとうピエロさん、またね!」
サバイバー、もといナマエは最後まで満面の笑みで手を振ると、そう言い残してぴょんっとハッチの中へ飛び込んで行った。
「……いや、“また”が合ったらだめだろ」
1人残されたジョーカーのツッコミも虚しく、後日また別の試合で再開したナマエがすっかりジョーカーに懐いてしまい、ニコニコとした笑顔で一緒にジェットコースターに乗ろうと誘われ、まさか自分が2回もジェットコースターに乗ったりするとはまだこの時は思いもしていなかったのだ。