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風になびく艶やかな髪を視線の端に捉えて、フロイド・リーチはぴたりと足を止めた。
次いで中庭のベンチに腰掛けて静かに本を読むその人を見つけて、フロイドは廊下からそちらへと足を動かした。
「……ナマエちゃん」
普段のフロイドを知る人からすれば驚くほど小さく、どこか焦がれるような色さえ感じさせて紡がれた名前は、勘のいい人が聞けば一発でその人に恋してることが分かるような呼び方だった。
「あれ、フロイド」
白いページに落ちた影に顔が上がる。
本から自分へと移った視線にフロイドの喉が無意識にきゅうと鳴ってしまって、誤魔化すように口を開いた。
「ナマエちゃんのこと見かけたから、声かけにきちゃったんだけど……読むの邪魔しちゃった……?」
「ううん、ちょうどキリのいい所だったから」
そう穏やかな笑みを浮かべて、ほっそりとした白い指が慣れた動作で本に栞を挟む。そのちょっとした仕草でさえきゅんと心臓が小さく跳ねてしまって、耐えるように下唇を噛む。そうでもしないとこの場で求愛しかねないからである。
「それ、何読んでたの」
「これね、おれの好きな作家さんの新作なんだ」
“好き”な作家というその一単語に内心で作り上げた見知らぬ作家の胸ぐらを掴みあげる。俺だってまだ好きとか言われたことないんだけど、なんて恋人どころか告白すらしていないのだから当たり前なのだが、そんなこと恋する人魚の前に関係ないのである。
嬉々として本のあらすじやその作家の好きなところを語るナマエの笑顔がこれまた可愛らしいのも悔しい。
「本当に好きなんだね、その作家のこと ぉ……ちょっと嫉妬しちゃうかも」
ふざけた調子で言った冗談半分本音半分の言葉に内心、告白も出来てねぇくせにダッセェなぁ、なんてちょっとの落ち込むフロイドの内心なんて微塵も知らないナマエだけがくふくふと楽しそうに笑っている。そんな所も可愛い。
「ふふっ、でも1番好きなのは貴方とこうしてお話することよ、ダーリン」
なんちゃって、なんて小悪魔みたいなお茶目な顔で笑う姿に勢いよく胸を抑えた。
「だ、大丈夫、フロイド!?」
「大丈夫……大丈夫……」
嘘だ。本当は全然大丈夫なんかじゃない。いくらあのフロイド・リーチといえどそこらの10代片想い男子と何ら変わりは無い。
「オレも好きだよ、ハニー」
赤くなった顔を両手で覆い隠して、隙間からナマエの顔を隠れ見る。その顔はやっぱり楽しげに笑ってるだけ。
あーあ、ずりぃな、なんて。
閉じられた好きな作家の新作と、変わりにこちらへ向けられた笑顔に今はそれだけで一先ず満足としておこう。
いつかこの笑顔が自分と同じ位赤くなることを目指して、フロイドは小さく息を吐いた。