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ぎゃっ、と短い悲鳴をあげて勢いよく横に吹き飛んだ男にドフラミンゴは目を見開いた。
地面に倒れ伏して動かない男を呆然と見つめて、それからハッと自身の背後で震えている弟のロシナンテを庇うように手を伸ばした。
ゆらりとどこか緩慢とした動きで男を吹き飛ばしたであろう人影が立ち上がる。
路地裏に薄く射し込む陽の光を浴びて消えた影から姿を現したのは、おそらくドフラミンゴと同じくらいの歳の少年であった。
どうやら彼が男を吹き飛ばしたらしい。
けれど、何故。
この島の人間はみんなドフラミンゴ達を嫌っている。憎んでいる。あの男だってそうだ。食べ物を求めてゴミを漁っていたドフラミンゴとロシナンテを見つけて口汚く罵りながら拳を振り上げていたのだ。
結局それが振り下ろされることなく今に至るのだが。
訳も分からぬままサングラス越しに少年を睨み付ける。少年の一挙手一投足も見逃さぬよう、隙を着いて直ぐに逃げられるようにと。
そんなドフラミンゴの事など意に返した風もなく、少年はドフラミンゴの前にただしゃがみこむと小さく口を開いた。
「髪、きれいだね」
どこか舌っ足らずで幼い口調で紡がれたその言葉に、ドフラミンゴはポカリと口を開く。
それがドフラミンゴとナマエの出会いだった。
「ナマエ」
「なぁに」
1つ名前を呼べば直ぐに間延びした返事がくる事にドフラミンゴは満足気に笑みを浮かべた。
3m以上あるドフラミンゴの体躯に合わせて特注で作られたソファはゆったりとしていて、名を呼ばれ何事かと近付いてきたナマエを隣に座らせるスペースは十分にあるはずなのに、ドフラミンゴはわざわざナマエを己の膝の上へと座らせる。
彼らにとってそれが常なのか、ナマエは眉一つ動かす事無くそれを受け入れ、ドフラミンゴの膝の上でくたりと力を抜くとその分厚い胸元に頭を預けた。
あの出会いからナマエは今もドフラミンゴのそばに居る。
ナマエは綺麗なものが好きだ。
髪が綺麗だと、ただそれだけの理由で島民の殆どを敵に回してドフラミンゴ達家族の味方をしてしまう程にはモノ好きで、馬鹿な子供がナマエという人間だった。
宝石や硝子、高価なものからガラクタと呼ばれるようなものまで。それらがナマエの琴線に触れるものならば世間一般の価値など意味もなくナマエはそれを綺麗だと眺めて、触れて、大切に扱う。
そして時にそれは「物」だけに収まらず「人」にまで及ぶ。それがドフラミンゴとその実の家族達だった。
出会った当時は意味が分からないと気味が悪いと馬鹿にし、見下していたはずなのに手放せなくなったのはいつだったのか。
ナマエの手が、ドフラミンゴの頭に伸びる。
陽の光を浴びてキラキラと輝く様が特にお気に入りらしい。こうして時折手を伸ばしては意味もなくこの髪を撫ぜたり、梳いたりしては満足気に微笑んでいた。
ドフラミンゴはその全てを許している。
ただ自己満足の為にドフラミンゴに触れるという行為を許している。
例えそれが頭部という人体の急所であろうとも。
他の誰でもないナマエだから、許している。
これが別の他人ならば、ドフラミンゴはすぐさまに相手を殺しているだろう。
そう、ナマエだけに許している特別なのだから、ナマエの特別だってドフラミンゴだけで良いのだ。
かつて同じく共に居たコラソンの髪もまた綺麗だと言って目を細めていたが、相手が家族で、血の繋がりのある実の弟であるから許容していただけでその弟ももうどこにも居ない。
今、ナマエが綺麗だと微笑む相手は自分だけ。
かつては違っても、これから先は変わらない。変えさせるつもりもない。
「ナマエ」
「なぁに、ドフィ」
名前を呼んでその薄い体を抱き締めれば、それに応えるようにナマエの両腕がドフラミンゴの背にまわる。
金糸の鳥籠の中に捕らわれているのはどちらかなんて、最早誰にも分からなかった。