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逃げていた。
どこか違和感を覚える石窟の中を全速力で駆けていた。
黄金色の結晶がそこかしこで煌めくこの石窟は、普段ならばその輝きに目を奪われていたのだろうが今はそんな余裕すらなく、恐怖にもつれそうになる足をただ必死に前へと前へと動かしていた。
耳に届く己の荒い息。その背後から一定に聞こえる何かを引きずる重い足音と石がぶつかり合う音。
どうしてこんな事になってしまったのだろう。
炭鉱の爆発事故に巻き込まれ、行方をくらませた友人の名が書かれた招待状を手にやってきたその場所に友の姿はなく、代わりにやってきた怪物に追いかけられている。
「っ!」
風を切る音がしたと思えば次の瞬間、足元に勢いよく突き刺さったツルハシに驚き転倒してしまう。
震える身体を叱責しながら立ち上がろうとするも、いつの間にか差した影に恐る恐る顔を上げれば怪物がナマエを見下ろしていた。
まるで爆発か何かに巻き込まれたかのように所々が焦げ、破れたシャツから顕になった上半身は胸部の半分から下が鉱石で形成されていて、腹部はポッカリと空になって向こうが見えていた。
同じように破れた袖やズボンから覗く体腕や足も鉱石で出来ているどころか、繋がってすらいないのにその何も無い空間すら体の一部だと言わんばかりに問題なく動いている。
その姿は最早ヒトではなく、ヒトの形を模した異形の怪物だった。
けれど、けれど怪物としか呼べないその姿は同時にかつて貧困を共に支えあった友の面影を宿していたのだ。
「のー、と、っ!?」
怯えを含んだ掠れ声が呟こうとしたその名前を言い切る前に、鉱石で出来た指がナマエの口内へと無遠慮に突っ込まれる。
親指と人差し指が舌を掴むとずりゅずりゅと柔い力で擦られてゾクリと背が泡立った。
「ふっ、うぅ、お、え……ッ」
口内を荒らす石の指から感じる硬い不快感と恐怖にじわりと涙が滲む。
閉じることの出来ない唇の端から唾液が流れて顎を伝った。
怪物は何も言わない。ただナマエが苦しみ喘ぎ、藻掻く姿を愉悦を孕んだ笑みを浮かべて見下ろしていた。
抵抗しようと口を閉じようとするも、硬い石の指の前ではそれも無意味に終わり、反対にまるで仕置だとでもいうように喉奥へと指を深く入れられて、嘔吐反射の苦しさに喉が痙攣して涙が零れた。
今度は首を振って逃れようとすれば、また同じことの繰り返し。
他に出来た抵抗と言えば足の間に体をねじ込まれて蹴ることは愚か、閉じることも出来ずにいる足でただバタバタと地面を蹴る事だけで、それもそのうち力をなくしてダラリとただ力なく下ちてしまう。
覆い被さる怪物の、男の背、聞こえる荒い息と喘ぎ声は異様で、そしてどこか情事を思わせた。
どれほどその行為が続いたのだろうか。
ビクビクと体を震わせながら化け物の指を受け入れていたナマエの口からようやく、銀糸を作りながらてらてらと唾液に濡れた指が引き抜かれた。
その頃には最早抵抗する気力も体力もなく、ただだらりと力の抜けた体で荒く呼吸を繰り返すナマエの姿があった。
「あ……」
怪物はそんなナマエを簡単に抱きかかえて歩き出す。
一体何処へ連れて行かれるのだろうか、その先で自分はどうなってしまうのか。
零れる涙は地面に吸われて痕跡すら残らない。
耳元で上機嫌に聴こえる鼻歌は、かつて友の隣で聴いたそれにそっくりだった。