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ナマエは疲れていた。
ナマエが所属している×率いるこの殺し屋組織は人手不足も相まってそこそこなブラック組織だった。
いや、やっている事は人殺しなので当たり前なのだが、敵対組織である殺連は同じ人殺し集団なのにこちらより断然高給で福利厚生有りのホワイト企業なのはどういう事なのか。
そんな殺連と正反対の福利厚生なんて微塵も縁もゆかりも無い組織で連日連夜、任務という名の殺人をこなしてきたナマエはもうめちゃくちゃに疲れていたのだ。
血のついた服を床に放り投げて、実に数週間ぶりにアジト自室のベッドへ倒れ込めばふかふかの布団が優しくナマエを出迎えてくれる。欲を言えば熱い湯船にも浸かりたいところだったが、今はそれよりも睡眠欲が圧倒的に勝っていた。
もぞもぞと布団の中に潜り込み深く息を吐けば、重たくなった瞼が下がりそこから一気に意識が沈み混む。
けれどそうして完全に眠りにつく寸前、ナマエはぐっと眉根を寄せた。
ノックの返事を待つこともなく無遠慮に開くドアの音、続いて布団の上から誰かが馬乗りにナマエへと跨った。
ナマエはこれでもプロの殺し屋なので、いくら疲れていようとその正体が誰かなどドアが開く前から薄らと気付いていたのだけれど、その対処をするには今のナマエは疲れすぎていた。
重い瞼を無理矢理こじ開ければ、やはり分かっていた通りの色素の薄い髪が目に映った。
「おかえり、ナマエ」
「…………ただいまぁ」
男の名は楽。同じこの組織に所属する殺し屋の1人である。
そこそこにこの男と長い時間を共に過してきたが、ナマエはこの楽という男の事をいまだによく理解できないでいた。というか殺し屋なんてものを職業に選んでいる時点で理解なんてものとは程遠い位置にいるのだろうが。加えて殺連という公式の組織ではなくこんな組織にいるなんて余程の変わりものなのだ。
そこはナマエ自身にも言えたことなのだが。
そんなどうでもいい事をうだうだと考えていれば、ぐるぐると包帯の巻かれた楽の手がナマエの髪をくしゃりと乱雑に撫ぜた。
「風呂、入ってないよ」
「別に気にしないけど」
こっちは気にするんだが、とは思ったがそれを口にしたところで止めるような男ではないので黙っておく。
構って欲しいのか何なのか、何を考えているのか分からない黒々とした目と視線がかち合う。互いに無言で暫く見つめ合っていたが限界に達した睡魔にとろりと瞼が下がった。
「寝るの?」
頭に置かれていた楽の手が下りて、親指がするりとナマエの目尻をなぞる。
そのまま瞼を完全に閉じれば、ぎしりと楽が動く。
やっとどいてくれる気になったかと思えば、目尻をなぞっていた親指が離れて代わりにほんの少しカサついた柔らかなものが一瞬目尻に触れた。
「……ぁ?」
なんだと薄らと目を開ければ、視界いっぱいにどこか満足気に微笑む楽の顔が写った。
なんだかよく分からないが、まぁ機嫌が良さそうならそれで良いかとまた目を閉じる。
「おやすみ、ナマエ」
その声を最後に意識を落とした。
意識が浮上して、ゆるりと瞼が上がる。
視界に広がる黒と自身を包む布団とは違う熱に眉をしかめた。
ほんの少し頭上、自身の耳元から聞こえる規則正しい寝息に身動ぎ顔を上げれば何故か己を抱き締めて眠る楽の姿。
抜け出そうと体をひねろうとすれば、唸り声と共に抱きしめる力が強くなってため息をつく。抜け出すのを諦めた代わりにベッドサイドの時計に目を向ければ眠りについてからまだ1時間と少ししか経っていない。
最低でもまだ2時間程は眠っていたい。
欲を言うならきっちり8時間睡眠はとりたい。
抱き枕が如く己を抱きしめてすやすやと眠る楽を見て、それから再び時計に目を向ける。
耳に聞こえる規則正しい寝息と秒針の音。
なんで同じベッドで寝ているのか分からないが、まぁいいか。
本日2度目の思考放棄で、目を閉じたのだった。
ちなみに仲良く寝癖をつけながら部屋から出てきた一緒に出てきた2人を見て宇田が「朝チュン?」なんてニヤケ面を浮かべていたのでナマエは思いっきり宇田の肩を殴っておいたのだが、なぜだか楽は嬉しそうだった。