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ガチャリと玄関のドアノブを回せば、乱数の耳にバタバタと騒がしい足音。
「おかえりなさい、乱数!」
満面の笑みで乱数を出迎えたのは、少し前からの同居人であるナマエという青年。
「ただいまナマエ」
ナマエが犬みたいだと乱数はその丸い頭を撫でた。
飴村乱数はつい先月、とある拾い者をした。
ここで重要なのはそれが“物”ではなく“者”であることだ。
お姉さんと遊んだ帰り道、路地裏に男が倒れているのが見えて、最初乱数はそれが同じFling Posseの有栖川帝統だと思ったのだ。
生粋のギャンブラーである彼は、よく無一文になって路地裏やら公園やらに居たから。
けれど路地裏に居たのは有栖川帝統ではなかった。
「おーい、こんな所で何してるの?もしかして、死んじゃってたりする?」
そう不謹慎に声をかけながら、男の頭をつつく。
パッと見、小さなかすり傷や汚れ程度で大きな傷も出血も見当たらない。
救急車とか呼んだ方がいいのかなと考えていると、ふと小さな呻き声。そして男がゆっくりと顔を上げる。
「あ、起き……た……」
持ち上がった男の顔を見て、乱数は言葉を失った。
年は十代後半だろうか。少し残った幼さに、パチリとした二重のまん丸綺麗な瞳、スラリとした鼻筋とニキビひとつないつるりとした肌。整った顔立ちは、磨けば光る原石みたいな。
乱数の脳内でぶわりと新しい服のアイデアが生まれていく。
そうだ、この子をモデルにしよう。
そうして気が付けば乱数は、男を家に連れ帰っていた。
その男こそがナマエである。
何でも聞けばナマエの会社は酷いブラック企業で、新入社員だったナマエは上司や先輩のパワハラの的にされてしまい、気が付けば路地裏で倒れていたそうで。
それを聞いた乱数はこれ幸いと、そんな会社辞めてうちでモデルとして働けばいい。
衣食住も提供するし、何ならここで一緒に住もうそうしようと疲弊と混乱で頭がいっぱいのナマエを丸め込み、辞表を書かせたのが先月の話。
そこから始まった乱数とナマエのこの少々奇妙な同居生活。
初めのうちは何かと困惑して遠慮していたナマエだったが、次第に笑顔が増えていき、今ではすっかり乱数に懐いていたし、乱数は乱数でそんなナマエことを一等可愛がり大切にしていた。
「ねぇ、ナマエ」
ナマエがいれてくれた温かなカフォオレに視線を落としながら、乱数は静かに口を開く。
「もしも、僕が本当は悪い人だって言ったら、どうする」
きょとりと首を傾げたナマエは、それでも直ぐに笑って答えた。
「乱数が本当は悪い人でも、それでも僕は僕をそばに置いてくれた乱数のことが大好きだよ」
ナマエは何も知らない。
けれどあの日自分を見つけて、半ば強引にそばに置いてくれたことを今のナマエは感謝している。
だから、例え本当に乱数が悪い人だとしても、ナマエは乱数が大好きなのだ。
「……馬鹿だなぁ、ナマエは」
そう言った乱数の顔は、どこか泣きそうな、けれどあんしんしたような笑顔だった。