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7月の疎らに聞こえる蝉の鳴き声を背に聞きながら、宮田司郎は病院内にひっそりと隠すように設けられた地下への階段を下って行った。
カツリ、カツリ、と地下に規則的な足音が反響する。
手術台と拘束具、いくら病院といえど片田舎の、それも地下に置かれたそれらは些か不釣り合いにも見えるが、更にその奥、本来こんな病院にはあるはずの無い鉄格子の前で宮田は足を止めた。
「ナマエ」
鉄格子の向こうで影がびくりと跳ねる。
小さく丸まって震えるその姿がまるで怯えた猫のようだと宮田は目を細めた。
鉄格子の向こうにいるのは猫などではなく、成人男性なのだけれど。
「し、ろう」
怯え混じりの掠れた声、ぼんやりとした光が当たって影から浮かぶ濡れた瞳が己の姿だけを写しているのに宮田はゾクリと背を震わせて、鉄格子の前へ視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
ナマエと宮田は友達だった。
少なくともナマエは宮田のことをそう思っていた。
それだというのに何故自分がこうして宮田の手により閉じ込められているのかナマエには分からなかった。
偶然仕事帰りに出会って、夜道を2人で歩きながらたわいもない話をしていた。
ふと立ち止まった宮田の方を振り返ろうとした瞬間、後頭部に走った痛みに視界を暗転させて気が付いたらここに閉じ込められていたのだ。
左足首に巻かれた拘束具から延びた鎖は壁に繋がれていて制限された動き。
地下には時計やカレンダーの類は、少なくとも視界に入る範囲には見当たらず、閉じ込められてどれほど経つのかもよく分からない。
朝昼晩の3食を持って来る時と恐らく勤務終わりにやってくる宮田の存在だけが、今のナマエに許された唯一の外との繋がりだった。
それこそが、宮田の目的なのだが。
宮田はもうずっと前から、ナマエの事を友達だなんて思っていなかった。
そんな生温い言葉で終わらせられるような関係など、宮田は望んではいない。
そうでなければ最初からこんな事などしていないのだ。
「泣いていたのか。目元が赤くなっているな」
鉄格子の隙間から手を伸ばして、親指で赤らんだ目尻を撫でる。
その指から逃れる様にナマエが顔を俯かせたのを特に気にした風もなく宮田は立ち上がると、鍵を手に鉄格子の扉を開けて中へと入り込み俯くナマエの前へとしゃがみこんだ。
「ここも赤くなっているな……痛むだろうに」
宮田がいない間に逃げようと足掻いたのだろう、足首と拘束具が擦れて剥けた皮膚からは血が滲んでいる。後で手当をしてやらなければと思いながらそこに手を這わせる。軽く押せばそれだけで痛むのだろう、ナマエの口から小さな呻き声が漏れ出ていた。
抵抗するように宮田へ手を伸ばすナマエの体を押し倒して、その薄い腹の上へ馬乗りになれば震えて自分を見上げるナマエの顔が良く見えた。
こうやって抵抗するナマエを組み敷いたのは、もう何度目だろうか。
いい加減諦めて堕ちてきてはくれないだろうかと頭の隅で思う。
明るくて人付き合いの良いナマエはきっとそのうちに誰かと愛し合って幸せな家庭を築いていくのだろう。
もしかしたらこの村からさえも出ていって。
この村に、宮田の名に縛られた自分の手の届かない場所に行ってしまうのかもしれない。
そう考えるだけで酷く恐ろしかった。
ナマエの首へ両手を添えると、そっとその白い首を絞めた。
引き攣った声と、どこか情事を思わせるような荒い息に下腹がずくりと重たくなる。
ドクドクと掌に伝わる脈拍は通常のそれよりも早い。
この早さの理由が自分と同じならばどれほど良いのだろうかと、有り得もしない可能性に縋るようにキスをした。