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大嫌いな伯父夫婦が頭から血を流し倒れていて、ナマエは思わず腰を抜かした。
視線の先には、ナタを手にした髪の長い大男。
その顔は逆光になっていて見えない。
「お前、こいつらの息子か」
「違う!」
大男の言葉にナマエは思わず反射的にそう答えてから、ハッと両手で口を塞いだ。
だって嫌だったのだ、自分の両親はかつて流行病で死んだあの優しい父と母だけで、間違っても自分をこき使って働かせるくせにまるで病原菌のように汚らしいと罵る様な人達では断じてないのだ。
「ふぅん、じゃあお前の家族は?」
自身の前にしゃがみこみそう問いかける大男に、ナマエはビクリと身体を震わせた。
「は、流行病で死んじゃった」
その答えに何を思ったのか、大男は1つにこりと笑うとナマエの体を抱き上げた。
ナマエも同じ男だというのに、ろくに飯も貰えなかった体は貧弱で軽々とまるで猫のように持ち上げられてしまう。
「じゃあ、俺と同じだな。俺は房太郎」
お前は?と聞く大男、改め房太郎にナマエは泣きながら名乗ったのだった。
それがナマエと海賊房太郎の出会いである。
ひんひんと房太郎に怯えていたナマエに房太郎は飯を与え、綺麗な服を着せ、夢を語りながらナマエを連れ歩いた。勿論拒否権とかはなかった。それでも房太郎がナマエに良くしてくれていることは分かったので、いつの間にかナマエも房太郎がほんのちょっぴり好きになっていた。
小さな宿の一室。今日はここで休もうと言って房太郎がとった部屋だ。
たった一つしかない火鉢の前で、大きな房太郎に後ろから抱きしめられるような形で暖をとっていた。北海道の夜はとても冷えるからか、こうしてナマエが房太郎に抱えられることは珍しくない。最初はガチガチに固まって笑われていたが、今では。ナマエも背中が房太郎の体温で温いことに気が付いて力を抜いて受け入れるようになっていた。
自分は調度良い湯たんぽ代わりなのだろうと。
もう二十歳になる男なので多少羞恥心はあるが。
「随分安心しきってるなぁ、ナマエ」
耳元でそう唐突に囁かれると房太郎の大きな手が下腹を這う。そのいつもと違う手つきにびくりと体が震える。
それは明らかに情欲を孕んだ手付きだった。
「あ、あの房太郎さん、俺の事からかって遊んでるんでしょう」
「いや?俺はいつだって本気だぜ」
もしや自分を都合の良い娼婦代わりにでも使うつもりなのかと、ダラダラと冷や汗が背を伝う。そんなナマエの様子に気が付いているのかいないのか、房太郎はナマエの顔へ頬を寄せた。
「気が付いたら好きになっちゃってたんだよな」
呑気な口調に紛れた「好き」という単語にいつから!?と脳内で疑問符が溢れかえる。混乱するナマエの背に房太郎が楽しそうに笑っていて、この人本気なのか!とナマエは振り返り房太郎を見た。
「お、俺、子供産めません」
「養子とればいいだろ」
ナマエは房太郎の夢を聞いていた。
小さな南の島に国をつくる。誰も家族を蔑ろにしない場所。帰る場所。
だからこそ出た言葉だというに、房太郎はあっけらかんとそう返してみせた。
「腕っ節も弱い!」
「俺の方が強いから、俺が守るよ」
「あ、頭も悪い!」
「俺もいい方じゃないから2人で考えよっか」
「み、見た目!見た目もよくない!」
「んー?俺にとっては可愛いけど」
反論は虚しく次々と返されて、はくはくと意味もなく口が開閉する。
「後は?」
なんて、笑いながら逆にそう問いかけて房太郎が立ち上がる。
出会った日より肉付きの良くなった体はそれでも軽々と房太郎に抱えられると簡単に布団の上に転がされた。
房太郎の顔はにっこり笑っているのに、その目の奥がギラギラと光っていて、ごくりと唾を飲み込んだ。
「や、優しくしてください」
頬を朱色に染めながら蚊の鳴くような声でそう返せば、ははっと房太郎の笑う声が聞こえた。
善処する、という言葉と一緒に降ってきたキスに、ナマエはそっと目を閉じた。
ちなみに次の日、腰を抑えるナマエとナマエを抱えた上機嫌な房太郎の姿があった。