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俺には姉がいる。
姉といっても本当の姉という訳ではなく、隣家に住む娘さんで俺より3つ歳上の人。
俺には昔から、人には見えない恐ろしいものが見えていた。それが妖怪か、はたまた別の何かかは分からなかったが、俺の周りに俺以外にその妖怪達が見える人は居らず、俺は家族からも周りの大人達からも気味悪がられていた。
そんな俺の手を引いて一緒に歩いてくれたのが姉さんだった。
俺を気味悪がらないで、優しく微笑んでくれた姉さんを、俺は本当の姉のように慕っていて、姉さんも俺を本当の弟のように可愛がってくれていた。
美人で優しい、大好きな俺の姉さん。
そんな姉さんが、ある日子を孕んだ。
相手は誰だという話になったが、姉さんは身に覚えがないらしい。
そんな不可解な妊娠を、それでも姉さんは「授かりものだから」と笑って膨らんだその腹を撫でていた。
姉さんの子供なのだから、きっと姉さんに似て優しい子が産まれるだろう。
そしたら俺が、誰ともしれぬその子の父の代わりに手を引いて守ってやろうと、そう思っていた。
そう、思っていたのだ。
十月十日後、姉さんの腹から産まれた子供は、人の形を成していなかった。
人には見えぬ、あの妖怪達にそっくりな子供。
周りの大人達は、そんな生まれた子供と産んだ姉さんを迫害した。
それが地獄の始まりだった。
それからも、姉さんは子を孕んだ。
やはり相手はどこの誰とも知れず、姉さんにも心当たりはなく、そうして産まれるは異形の子。
そんな姉さんを周りの大人達は益々気味が悪いと罵って冷たい視線を浴びせて石を投げつけた。
俺のまだ幼い小さな体では、姉さんを飛んでくる石から庇ってあげることも出来なくて、そんな自分が憎くて仕方がなかった。
「駄目よ、お前まで一緒に来る必要ないの」
そう俺に言い聞かせる姉さんの細い肩を掴む。
「嫌だよ!今度は、俺が姉さんの手を引いてあげる!お腹の子供も、姉さんも、俺が守ってあげるから!」
美人で優しい、大好きな俺の姉さん。
死んだ異形の赤子を抱えて泣く姉さんの手を引いて、俺達2人はその地獄から逃げ出した。
優しい姉さんが、もう酷い目にあうことのないように。
今度こそ俺が姉さんを守ってみせると誓って。
姉さんと2人、逃げ込んだのは山向こうにある寺だった。
出迎えた男は、姉さんの腕に抱かれた異形の子の亡骸を見て、興味深げに目を見開いて自分達を寺で保護し、受け入れようと微笑みかけた。
「私の名前は加茂憲倫、どうぞよろしく」
あぁ、俺はこの男の名を、一生忘れないだろう。
そこから先が、俺達にとっての“本当の”地獄だった。
異形に犯される姉さんを助け出す力は、まだ弱い俺にはなくて、壊れいく姉さんをただただ見つめることしか出来なかった。
「おねがい、わたしを、ころして」
途切れ途切れに掠れた声で紡がれたその願いに、俺は応えるように両の手に力を込めて姉さんの首へとかけた。
九つ硝子瓶、その液体の中でぷかりぷかりと揺蕩う、異形の子供達。
大好きな姉さんの子供、愛しい忘れ形見達。
「お前達は、お前達だけは、俺が守ってみせるから」
その晩、九つの硝子瓶を抱えて俺は寺を抜け出した。
そこから先、どうなったのかと言えば、俺は数年後にあっさりと見知らぬ呪術師に殺されて死んだ。きっとあの男の差し金かなにかなのだろう。
子供達には数年で何とか死にものぐるいで身に付けた呪力と術式でもって硝子瓶を強固なものにして下手な力では瓶もその中の子供達も害されないようにしてあったので、何とか無事であってくれと祈った。
結局俺には姉さんを守る力もなくて、姉さんの子供達を上手く育ててやる術も分からなくて、不甲斐ない、未練ばかりの人生は幕を閉じたのだ。
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「悠仁くん、野薔薇ちゃん、無事!?」
鯉口峡谷八十八橋付近の道路
謎の特級呪霊2体と交戦中だった虎杖悠仁と釘崎野薔薇が応援に駆けつけてくれたのか、聞き馴染んだその声に応えるより先に、人型に近い方の呪霊が口を開いた。
「……父さん?」
見開かれた目は驚愕に染まり、顔を2つ持った方の呪霊も動きを止めて駆け付けた男の顔を凝視している。
そして再び幕は上がった。