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ナマエは面倒事が嫌いだ。
平穏無事に、出来るだけ波風立てないように、一癖も二癖もあるこのNRCで生きてきた。
その甲斐あってか、この3年間特に目立ちもせず問題も起こさずにいたのだが、ここ最近その3年間築き上げた平穏にヒビが入りつつある事にナマエは頭を悩ませていた。
「こ、こんにちは、ナマエ先輩!」
廊下に響く程の大きな声でかけられた挨拶に、幾人かがチラチラとこちらの様子を伺っているのが分かって、ナマエは思わずため息をついた。
「こんにちは、スペード。元気なのは良いけれど、もう少し声量を控えなさい」
どこぞの魔法史教師を思い起こさせるようなナマエの注意に、デュース・スペードはハッと目を見開くと、正しくしょんぼりという擬音が付きそうな程に肩を落とした。
「すみません。僕、ナマエ先輩に会えた事が嬉しくて、つい」
「.......そう」
そう言ったデュースの顔は、ほんのりと赤く色付いている。
これだ、これなのだ。
ここ最近ナマエの頭を悩ませているのは、このデュース・スペードから向けられているあからさまな好意なのだ。
これが唯の後輩から先輩への尊敬だとか、そういうものならばナマエだって、そこまで悩まなかったし無碍にもしなかった。
問題はその向けられている好意が尊敬ではなく、たぶん、というか9割りの確率でLIKEではなくLOVE的なあれなのだということなのだ。
ナマエはポムフィオーレ寮所属の3年生で、ハーツラビュル寮の1年であるデュースとはほとんど接点がない。同じ部活動だというならまだしも、陸上部の彼と違いナマエは乗馬部。
本当に何故こうなっているのか、ナマエは全く分からないでいる。
デュース本人は隠しているつもりなのだろうが、天然なのか態となのか、この1年はこうふとした時にポロッと好意を口にしてくるし、顔や視線がこう、熱っぽいというかなんというか、どう見ても恋してます、という顔をしているのだ、というか何なら他の学生達もデュースがナマエに恋していることに気付いている。
それくらいに、デュースの恋は分かりやすかったのだ。
思春期真っ盛りの男子高校生達が、そんな2人を放っておくはずがなく、周りから向けられたどこか生ぬるい視線にナマエはぐっと眉根を寄せた。
別にデュースが悪い訳では無いのだが、出来るだけ早く離れたくて「じゃあ、これで」なんてそそくさと立ち去ろうとしたナマエの腕をデュースがパッと掴んだ。
唯、掴んだ当の本人も無意識だったのだろう、顔を赤くさせながらもごもごと口を開けては閉じては繰り返したかと思えば、まるで戦場にでも向かうかのような顔ぶりで、ナマエを見た。
「あ、あの!良かったら、今度ハーツラビュルのお茶会に来てくれませんか!?」
「.......悪いけど、ハーツラビュルのルールを知らない俺が行っても良くないだろうからやめておくよ」
あんな訳の分からないルールなど、ハーツラビュルの寮生でさえ全てを把握していないのに、他寮のナマエなど即座に首をはねられてしまうだろう。
そんな事真っ平御免だった。
捨てられた子犬のような顔をしているデュースには悪いが、ナマエは自分が1番大切なのである。
「じゃ、じゃあ、2人でなら、どうですか!?」
「は?」
ずいっとデュースの顔が近づいて、ナマエは思わず仰け反った。
「僕と2人なら、ハーツラビュルのルールも気にしなくていいですし、お菓子やお茶も僕が全部用意します、から……その……」
どんどんと勢いがなくなるデュースに野次馬上等、ニヤニヤと見物していた周りの生徒たちから「いいじゃねぇかナマエ!後輩には優しくしてやれよ」「ヒュー!甘酸っぱいねぇー!」なんて面白半分のヤジが飛んでくるのを、ナマエは死んだ目で聞き流す。
自分の恋が周りにバレてると気づいていない、というか、ナマエを誘うので内心いっぱいいっぱいのデュースはヤジにすら気付いていないようだが。
「だめ……ですか……」
雨の日に捨てられた子犬を連想させるような上目遣いが、ナマエを見る。
制服の袖の裾をそっと掴んでいるのは、態となのだろうか。いや、この1年の場合天然というか無意識なのだろう。だからナマエにとってはタチが悪いのだが。思わずハァと深いため息が出る。
「それなら、まぁ……行ってもいいよ……」
「ほ、本当ですか!?」
デュースの顔がパッと一気に喜色満面に輝くのを直視して、ぐっと眉を顰めた。
本当に何故こんなに純粋真っ直ぐな眩しい奴が自分を好いているのか、やはりナマエは心底分からなかった。
「僕、トレイ先輩に美味しいケーキの作り方とか教えてもらいます!ナマエ先輩に喜んで貰えるようなお茶会にしますね!」
「あぁ、うん、楽しみにしてます……」
はい!と元気な返事にナマエはまたハァ、とため息ついた。
とりあえず周りでヒュー!ヒュー!と口笛を吹いてる野次馬共は後でこっそり絞めておこうと思った。