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「ほんっとアンタって最低最悪のクズ男!」
500万人のマジカメフォロワーを持つモデルにして、ポムフィオーレ寮 寮長であるヴィル・シェーンハイトはその美しい顏を歪ませて、そう言い放った。
「知ってるぅ〜」
けれどそれを言われた当の本人は、そう返事をしてヘラりと笑うものだから、ヴィルはとうとう頭を抱えてしまった。
きっと後にも先にも、ヴィルをこんな気持ちにさせるのは、この男ただ1人だけだろう。
──────────
「あ、ナマエくんだ」
「何、知り合いすか?」
お昼の食堂、ケイトの呟いた一言に監督生とエーデュースはその視線の先に目を向けた。
「うわ、すっげーイケメン」
「本当だ……あの腕章は、ポムフィオーレ寮か?」
視線の先、遠目から見ても分かる顔の良さにエーデュースの2人がそれぞれ反応を示す。
「……良いのは顔だけだよ」
「どういう事ですか?」
どこか忌々しげにそう口にしたリドルにデュースが疑問を浮かべ、3年2人は苦笑いを浮かべている。
「そうだよね、4人は1年生だから知らないよね」
「アイツの渾名は«ポムフィオーレの美しき汚点»だよ」
男の名前はナマエ。
ポムフィオーレ寮所属の3年生、ついた渾名は「ポムフィオーレの美しき汚点」
そんな褒められてるんだが、貶されているんだかよく分からない不名誉な渾名をつけられたのには訳がある。
何故そんな渾名がついたのか。
それは端的に言えばナマエがクズだからである。それも自他共に認めるクズ。
将来の夢はヒモニート、養ってくれるお姉さんないしお兄さんいつでも募集中です。だなんて公言するようなどうしようもない男。
けれど幸か不幸か、ナマエという男は顔が良かった。
スラリと通った鼻筋に、柔らかな雰囲気のタレ目を縁取る長い睫毛、まさしく甘いマスクという言葉がピッタリと合うような顔。
この顔にあの性格、いったい何人の女性あるいは男性が涙を流してきたのだろう。
ふとそんなナマエの顔が、監督生達の方を向き、思わずドキリとしてしまう。
そんなこちらの事など知ってか知らずか、へらりとどこか軽薄な笑みを浮かべながら噂のナマエがゆったりとした足取りで近付いてきた。
「熱〜い視線を感じてぇ、来ちゃいました〜
こんにちは、リドルくん、トレイくん、ケイトくん。あ、そっちの4人は噂の新入生くん達かな?」
「え、僕らのこと知ってるんですか」
お邪魔しまぁす、なんて言いながら近くの席に腰を落ち着けたナマエは、驚いたようなデュースの問いにカラカラと笑って頬杖をつく。
それすら様になるものだから、イケメンは違うなぁと監督生は思った。
「知ってる、知ってる。入学式の日に乱入してきた魔獣くんとオンボロ寮の監督生くん。
それからシャンデリア壊したりリドルくんに決闘挑んだ1年生。これだけ面白いことやってたら知らない人の方が少ないよぉ?」
元気の良い子達が入ったね?と笑いかけてくるナマエに、トレイとケイトは苦笑いを零し、リドルは眉間に皺を寄せた。
当の本人達は並べられた1連の問題行動にエースは空笑いで目を逸らし、監督生は頭を抱えた。特に優等生を目指しているデュースは肩を落として落ち込んでいる。グリムだけが知らぬ存ぜぬで1人お昼ご飯を食べ続けていた。
「いいじゃん、いいじゃん。俺は君達みたいな話題性のある子、好きだよ」
そう言って1番近くにいたデュースの手をするりと指で撫でる。どこか色っぽいその仕草に、1年生達は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
特にされた本人のデュースは顔を赤くさせてしまっている。
「あんまりウチの1年を揶揄わないでくれ。
お前のそれは、外から見てる分には面白いって意味の好きだろ」
「あはは、そうかもねぇ」
呆れを含んだような声音で注意するトレイに、ナマエはへらりと笑ってパッとデュースから手を離した。
「いやぁ、それにしたってこれで顔赤くなっちゃうなんて、初心っていうかなんていうか……ふふっ、可愛いね、君」
甘いマスクにトロリとした笑みをのせて、ナマエがデュースの顔を覗き込む。
瞼を縁どる長い睫毛が落とした影すら見える程近づいた顔に、デュースは首まで赤くしてパクパクと口を開閉させることしかできない。
いい加減にしないかとリドルが立ち上がろうとした瞬間、何かに気付いたらしいケイトがリドルの服を掴んで制止すると、ナマエの背後を指さした。ナマエの背後に近付くそれにリドルも気が付くと、溜息をつきつつ椅子に座り直す。どうやらリドルの出番は無さそうだ。
当の本人であるナマエはもう真後ろにまで来たその存在に気が付いていないのだろう。
頭に振り落とされたその拳を避けることが出来ずに、ゴンッという鈍い音が響いた。
「痛っ!」
突然襲いかかった痛みに頭を抱えながら、ナマエは背後を振り向いた。
「他寮の1年口説いていいご身分ね、ナマエ?」
「あ、ヴィル」
ナマエに拳を振り落としたのは、ポムフィオーレの美しき寮長、ヴィル・シェーンハイトその人だった。
その美しい顔が、ナマエを睨みつけている。あまりの視線の冷たさと怖さに、監督生達1年はヒエッと喉から間抜けな声が漏らしてしまう。リドルやトレイ達は慣れているのか、やれやれと肩をすくめているだけだ。
そして睨まれている当の本人はというと、拳の正体がヴィルだとわかった今、睨まれているのもなんのその、殴る事なくな〜い?なんてヘラりと笑ってそう抜かしている。
「悪かったわね、このバカはアタシが責任もって回収させてもらうわ」
行くわよ!と慣れた手つきでグイッとナマエの襟首を引っ張ると、そのままズルズルと半ば引きずる形でヴィルはナマエを回収していった。
引き摺られながらもヘラヘラと手を振るナマエとヴィルの姿に、「めちゃくちゃな人達だったな」とポツリとエースが呟いた。
「でもなんか、渾名の意味がちょっと分かったわ」
「でしょ?」
あの整った顔立ちにあの言動、正しく美しき汚点と呼ばれるに相応しい人だったな、と1年生達嫌に納得した。
「ヴィル先輩も、よくあれで許してるね」
僕なら直ぐに矯正させるよ。と呆れたように言うリドルに、1年長く2人を見てきたケイトとトレイはいやぁと苦笑を漏らした。
「ヴィルはあれでナマエの事を気に入っていってるというか、なんというか、なぁ?」
「ナマエくんに対するヴィルくんの対応って、やっぱ他と違うっていうか、まぁ、特別だからね」
もう遠くに見えるヴィルとナマエへ視線を投げる。
いつの間にか並んで座っている2人、ヴィルは何やらナマエの頬を抓りながら説教しているようだが、慣れているのか特段気にした風もなくヘラヘラとしたままのナマエに溜息をついている。
けれどそんなヴィルに、先程までの軽薄そうなヘラヘラとした笑みとは違う、どこか子供っぽい笑顔を浮かべたナマエが何事か喋りかけると、釣られたようにヴィルまでもがしょうがないな、とでも言うような笑みを浮かべている様子に、人間関係のあれこれにそれなりに聡いエースがあー、と3年2人を見やった。
「僕には分からないが、2人は仲が良いって事ですか」
「まぁ、そういう事だよ」
よく分かっていないデュースに、トレイがそう返してやる。
あぁして2人じゃれていると、普通の学生と変わらないな、なんて監督生はお昼ご飯のツナサンドを頬張りながら、そう思った。