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まだ自分がピチピチ10代の中学生だった頃。
将来のことなんてまだなんにも考えてなくて、呑気に笑ってた頃
その日はもう11月も後半で、部活帰りの俺は寒い寒いとマフラーに顔を埋めながら、家路を急いでいた。
その時ふと、道の途中にある小さな公園のベンチに白い影が2つ、隣に設置してある自販機の明かりに照らされて身を寄せあって居るのを、視界に捉えて足を止めた。
よくよく見れば、まだ十にもいかないような子供だ。どことなく似たような見た目から察するに、兄妹だろうか。
もうとっくに日も暮れてこの寒いなか、上着もなしに震えている様は、中学生の自分でも「何かよくない事情がある」と分かってしまった。
大人じゃないまだ子供の自分に出来ることなんてきっと無いし、あったとしてもたかが知れてる。
それでも、それでもその時何か2人にしてあげたくて、多分同情とかそんな気持ちより、我儘という方が大きかったように思う。
俺は自販機へと足を向けた。
2人は俺に気がつくと、ビクリと一瞬体を強ばらせた。兄の方は珍しい赤色の鋭い目で警戒するように睨みつけてきて、妹を守るように抱きしめた。
それに気にせず、温かいコンポタとココア、それとブラックコーヒーの缶3つを買うとわざとらしく声を上げた。
「あー!!ブラックコーヒーだけ買うつもりが間違えてコンポタとココアまで買ってしまったーー!!俺は甘いのが苦手だから飲めないんだぜーー!!困ったーーー!
お!ちょうどいいところに子供が2人!これを貰ってくれると助かるんだぜ!」
たぶん、傍から見れば大根役者だと笑われるような、それほどまでに下手くそな芝居で俺は2人に無理矢理コンポタとココアの缶を押し付けた。
急なことで驚いたのだろう2人はきょとりと目を見開いて、反射的にコンポタとココアを受け取っていた。
「……あったかい」
缶のココアを握りしめた妹が、ポツリとそう漏らしたのが聞こえた。
それに気を良くした俺は、一気に熱いブラックコーヒーを胃に流し込む。
ブラック何て本当は苦くて飲めないけど、そこは中学生。自分より小さい子供2人にかっこつけたかったのだ。
「あーー!!熱いブラックコーヒーを一気飲みしたら体が暑くなったんだぜーー!!
マフラーなんて要らねーー!!邪魔なんだぜ!!これも押し付けてやるんだぜーー!!」
呆然とした2人はされるがままに、俺にマフラーでぐるぐる巻にされていた。
「おっといけない!俺はもう帰るんだぜ!
君たちのこれからの人生に、幸多からんことを!!」
兄の方が俺に何か言おうと口を開きかけたが、俺はそれを聞く前に走って公園を出た。
俺のしたことは全部その場しのぎに過ぎない。というかたぶんそれ以下。それが悔しかったのだ。
だから俺は、何かを聞く前に走った。全くもって自分勝手な中学生である。
余談だが、帰宅後母親に、マフラーをなくしたと話したら叱られた。
それが今から約15年ほど前の話になる。
俺はそんなアホな学生時代乗り越えて、今や立派な社畜気味社会人。
そんな俺が何故、今更な昔話を思い出していたのかと言えば
「よお。あの時の借りを返しに来たぜ」
その言葉と共に現れた、元TDDメンバーにして現MTCメンバー。この横浜で知らない者はいないヤクザ、碧棺左馬刻。
彼の手に握られた、俺が2人の子供へ巻き付けたマフラーが原因である。
あぁ、もしや碧棺さんってあの時の子供さんでいらっしゃる?だとか
白い髪に赤い目って配色が鶴っぽいし、これは鶴の恩返しならぬ、Mr.HCの恩返しですね。だとか、そんな現実逃避が頭をよぎる。
「ず、随分とご立派になられたようで……」
碧棺左馬刻は楽しげに笑って、俺の手を取った。