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昔、俺がまだはなたれ小僧のクソガキだった頃、近所に尾形百之助という、俺より歳が5か4つほど下の少年がいた。
当時その尾形少年は、ボロい安アパートの階段にいつも1人で座り込んでいたものだから、俺は子供ながらに哀れに思ったのか、それとも兄貴面したい年頃だったのか。よく話しかけては無視をされていた。
けれども俺はそれが気に食わなくて、同級生の友達に放っておけと言われても、何かと話しかけて、時には手を引いて、無理矢理に尾形少年と過ごしてやった。そうしているうちに彼も徐々に心を開いてくれたのか、自分から話してくれるようにもなったし、ガキの俺よりまた小さな手が俺の手を握って来た時なんかは、なかなか懐かない近所の野良猫が初めて撫でるのを許してくれた時のような妙な感動と嬉しさを子供ながらに覚えたものだった。
けれどそんな日は長くは続かず、尾形少年の祖父母が彼を引き取りに来たことで呆気なく終わりを迎えた。
まぁ、彼にしてみれば良い話なのだけれど。
俺はそれが酷く寂しくて、別れの言葉も無しに行ってしまった彼に暫くの間不貞腐れてもいた。
まぁ、ガキの時は分からなくて、大人になった今なら分かることなのだが、当時彼は虐待とまではいかずとも、育児放棄を受けていたのだろう。
そんな彼が祖父母に引き取られていくには、その間色々とあったのだろうことは推測できるし、仕方ないことだったのだろうなと思うのだが。
さて、そんなガキの頃から年月は経ち、悲しきかな俺は立派な社会の歯車の一つになって、死んだ目をしながら生きるようになったのだが、何故そんな今その尾形百之助という少年の事を思い出しのか。
それは現在進行形で、あの頃より大きく、けれどまだ未熟さを孕んだ彼が、何故か俺の家にやってきて俺を押し倒したかと思えば、俺の上に跨っているからである。
「お、尾形百之助くん、だよね?これはあの、一体全体どういうことなので、しょう、か」
恐る恐る尋ねる俺に、尾形少年は、いや今はもう尾形青年なのだろうか。まぁとにかく彼は、ははっ、とかつて見た事がない笑いを浮かべながら、俺を見下ろした。
「何だ、用がなきゃ会いにきちゃいけないのか。俺はずっとアンタに会いたくて会いたくて仕方がなかったっていうのに、随分と酷い人だなぁ、ナマエさん?」
いや、別に、そんな、なんて口ごもる俺に、何が楽しいのか尾形青年はずっと笑みを浮かべている。
それどころかすっかり男らしくなった手がスルスルと俺の頬から顎、首筋へとなぞるように下りていって、思わずひえっと情けない声が漏れた。
「そ、そもそもなんで俺の家知ってるんですか、ね.......」
就職する際に実家から出て独り立ちした俺のアパートへとこうして彼が訪ねてきた事に疑問を浮かべれば、事も無げに「お袋さんから聞いた」なんて返ってきて俺のプライバシーとは?と思わず頭を抱えてしまう。
けれど衣擦れの音をさせながら、尾形青年が俺のワイシャツのボタンを外していく様子に直ぐに脳が切り替わる。
「え、あの、何をしているんですかね」
「あぁ、気にするな。アンタは俺に身を委ねてくれてさえいればいい」
いや良くないが。
俺もそこそこに長く生きてきたので、一通りに経験はしてきたつもりだ。
男同士だぞ、揶揄ってるのか、なんて怒鳴ってやろうとしたが尾形青年の黒々としたその目にほんのりと薄暗い、けれど確かに宿る熱を見て息を呑む。
だからこそこれはやばいぞ、と脳内が警笛を鳴らす。
尾形青年と俺は5つか4つは確実に年が離れているのだ。俺の年齢から逆算するに彼はまだ学生で未成年だ。というかよくよく見れば彼の着ているワイシャツとスラックスは学校の制服ではないのだろうか。対する俺は会社帰りのスーツ姿。
おっさんとまではいかずとも、とっくに成人済み社会人に跨りワイシャツのボタンを外している学生、という図は相当に不味いのでは?と漸く気が付きぶわっと一気に冷や汗が出る。
そんな俺の心情など知らずに、はたまた気が付いていて尚続けているのか、俺のシャツを第三ボタンまで外した尾形青年は、晒された俺の鎖骨へ顔を寄せるとガリッと噛み付いた。
走る痛みに思わず声が漏れて慌てて視線を向ければ、バチリと尾形青年と目が合った。
すぅっとその目を細めたと思えば、見せつけるように赤い舌を覗かせてべろりと噛み跡を舐めあげる。その熱さと擽ったさにぶるりと背筋が震えて、嫌だった。
最近の学生とはこうもませているのか。
申し訳ないが俺は犯罪者になりたくないので、もうここら辺で勘弁して欲しい。
「もう、離れてやるものかよ」
そう言って尾形青年の手が俺のベルトへ延びたので、この後全力で抵抗させてもらった。