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フロイドが第1にナマエに抱いた感想は、変な奴。だった。
フロイド・リーチの隣の席は大体いつも空席だ。
それもそのはず、周りからのフロイドへの認識は関わり合いたくないヤベェ奴だからである。
他者からの評価など特に気にしていないフロイドだが、いちいちビクついた反応をされるのもそれはそれでウザったくて、その日は妙に気に障っていたのだ。
そんな時に出会ったのがナマエだった。
「隣の席、いい?」
「俺今イラついてるから、何するか分かんねぇけど」
それでもいいの?と半ば脅すような口調で言えば、周りの温度が一気に下がった。
けれど言われた当の本人であるナマエはその言葉にキョトンと目を丸くした後、あろう事かカラカラと笑いだしたのである。
「フロイド君は、優しいんだねぇ」
何言ってんだコイツ、とそう思うまでもなくナマエはストンとそのまま隣を陣取ると何事もなかったかのように授業の用意を始めたものだからフロイドは妙な気持ちになって、いつの間にかイライラは治まっていた。
それからフロイドは、ナマエに絡みに行くようになった。
暇潰しになる変な奴、程度の認識。それがお気に入りの友達になるのには、そうそう時間はかからなかったように思う。
フロイドにとって、ナマエの傍は居心地が良かった。
フロイドが褒めてと言えばナマエはきちんとフロイドを褒めたし、フロイドの機嫌が悪そうならばナマエはそっと距離を置いてくれた。
かと言って従順ないい子ちゃんかと思えば、理不尽な事をされたり、嫌だと感じた事にはきちんと不快感を示して拒絶する。
フロイドが契約違反者の取り締まりに渋々向かおうとしてたところ見かけたナマエが、ちょっとした悪戯を提案してきた時には一気に気分が上がったし、そういうノリの良いところも、フロイドが気に入る一端だった。
「もー、ナマエってば、本当に面白いんだよねぇ」
楽しげに話すフロイドに、ジェイドは良かったですね。と頷いている傍らで、契約書の束を整理していたアズールがふんっと鼻で笑う。
「貴方みたいな気分屋に付き合ってくれる変人、よく見つけましたね。普通ならとっくに愛想をつかして逃げ出してる」
アズールの言葉にフロイドはムッとした。
けれど確かに、今までの奴らは皆フロイドの気分屋的な性格に着いていけずに離れていってしまっているのもまた事実だった。
その程度で離れていってしまう奴らなんて、別にどうでもいいし、それでナマエも離れてしまうならナマエもそんな奴らと同じのつまらない奴だったというだけの話だ。
それだけの話だと言うのに、妙に胸がざわついてフロイドは1つ舌打ちを漏らした。
そんな片割れの様子にジェイドは楽しげに目を細め、反対にアズールは目を見開いた。
どうやらアズールやジェイドが思っているよりも、というか本人すら気づいていないのかもしれないが、ナマエというクラスメイトの存在は存外フロイドの中で大きくなっているらしかった。
「ナマエってさぁ、オレのことどう思う?」
フロイドは先日アズールに言われたことを、ちょっと、本当に少しだけ気にしていたのだ。
ずっとモヤモヤし続けてるのは性にあわない。そんな思いでなんの脈略もなく聞いた質問に、ナマエはうん?と首を傾げた。
ただ今日のフロイドは妙にソワついているように感じていたので、何か合ったのだろうことだけは何となく察せられた。
「よく分からないけど、フロイド君は、きちんと自分の思ってることを口に出して教えてくれるでしょ?だから一緒にいてとっても楽。
そこらの察してちゃん達よりずっと良い子だと思うよ」
背伸びしてフロイドの頭を撫でながら、ほんの少し悪い顔でナマエが笑う。
あ、その顔好きだなぁ……
そう思った途端、胸がキュンと小さく音を立てる。
(.......は?)
何、今の。と胸を抑えて、その場にしゃがみこんでしまう。
「フロイド?どうかしたの」
急にしゃがみ込んだフロイドを心配したのか、ナマエも同じようにしゃがみこむとフロイドの顔を覗き込む。
そのせいでぐっと、お互いの顔の距離が近づいて、ナマエの意図してなどいないであろう上目遣いになった瞳にフロイド自身が写り込んでいるのまで見えた。
(あ、あれ?ナマエってこんな可愛かったけぇ?)
今までそんなこと、思ったことなかったのに。
というかなんか、良い匂いしない?
ぶわりと一気に顔が熱くなって、ぐるぐると頭が回り出す。
今の自分はきっと、金魚ちゃんと同じように顔が真っ赤になってるかも、なんて現実逃避までし出す始末で。
「キュウ.......」
「え、え!?フロイドー!?!?」
とうとう脳のキャパシティオーバーを起こしたフロイドは、そんな可愛らしい鳴き声をひとつ残してぶっ倒れたのだった。
フロイド・リーチ、17歳。
マフィアと言われようが、怯え恐れられていようが、まだまだ恋には初心な男子高校生なのである。
恋を自覚したフロイドが、好きな人の目の前でぶっ倒れた事に俺ダサすぎなんて頭抱えたり、毎日ナマエに贈り物をするようになったり、無意識にパカリと口を空けてしまって顔を真っ赤にしたりしてしまうのは、また別の話。