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呪いの王である両面宿儺は天上天下唯我独尊、己ただ1人の快・不快のみを指針として生きている。他人を気かけることも無く、故に彼のそばに居るのは役に立つと評価した裏梅のみであった。
そう、ここで重要なのは裏梅のみで"あった"という過去形なことである。
今日も今日とて女子供関係なく、というか女子供こそ嬉々として血祭りにあげてきた宿儺が根城へと帰ってくれば、いつもの様に粛々と頭を下げ出迎える裏梅ともう1人。どこかぽけっとした顔で頭を下げる青年がいた。
「お帰りなさい、宿儺様〜」
男の名前はナマエ。かの呪いの王、両面宿儺の愛玩動物、そうペットである。
ナマエという男は変わった人間だった。
それこそあの両面宿儺の気を引くくらいには変わっているといえば分かるだろう。
それはなんて事ない宿儺にとっての日常のひとつ。いつも通り気の赴くまま、殺戮の限りを尽くした村で1人、ナマエだけがこの状況を逃げるでもなく、悲観するでもなく、憎悪するでもなく、ただただしょうがないと受け入れていた。その時のナマエはまだ10にも満たない子供だった。それの何と異質な事か。
「貴様、何故怯えない」
そう問うた宿儺に、ナマエはゆっくりと口を開いた。
「いやぁ、だってこれってある種自然の流れでしょ」
自分達が山や川で獲物を狩って、食べるのと同じこと。
生きるために必要な、自然の流れの1部。
その順番が自分達に回ってきて、そしてその捕食者にはどう足掻いても敵わない。ただそれだけの、よくある話。
まるで他人事のように、けれどきちんと自分の立場を理解して、その上でそんな風に捉える異質な子供を、宿儺は面白いと思った。
だから宿儺はナマエを自身の根城へと連れ帰った。当然のように拒否権などない。
そんな状況下でも子供らしく怯えも泣きわめきもせず、ナマエはただ大人しくされるがままだった。まぁ、あまりに宿儺の持ち方が乱雑過ぎて首がしまっていたので、途中から気絶していたのだが。
そういう経緯でもって、ナマエは数年たった現在、愛玩動物というポジションを獲得して宿儺と共に暮らしている。
愛玩、とつく程なのでナマエはそれなりに宿儺に可愛がられていた。それでも最初の方は頻繁に殺されかけたし、今でもたまに殺されかけたりするのだが、それでも他の人間達から見てみればナマエは驚くほど宿儺から大切にされていた。というか数年共に暮らして殺されていない時点でお察しである。
「宿儺様、お土産とかないですか。この前くれた唐菓子また食べたいです」
「.......貴様は面の皮が厚くなっていくな」
呆れたような宿儺に、ナマエはいやぁとヘラりと笑った。
「だって宿儺様に連れてこられた時点でもう逃げられないですし、殺される運命しか残ってないっていうか?ならもう死ぬまで生を謳歌するしかなくない、みたいな」
「よく分かっているではないか」
ナマエのこういう、よく理解しているくせに妙なところで阿呆なところが、宿儺は気に入っていた。馬鹿な子ほど可愛いというあれである。
「まぁ、気が乗って覚えていたら、唐菓子程度また持ってきてやろう」
「やったー!」
4本の腕が、乱雑にナマエの頭を撫でた。
そんなナマエは呆気なく死んだ。
呪術師達によって抵抗する手段すら持ちえていなかったナマエは、赤子の手を捻るが如くそれはもうあっさりと殺された。
たった1人人間が死んだところで、宿儺の在り方は変わらない。
けれど、ナマエはただの人間ではなかった。宿儺にとってナマエは愛玩動物なのである。その死は確かに、宿儺にとって不快に値するものだった。
そう、それは呪いの王と呼ばれた両面宿儺に訪れた、初めての所謂ペットロスであった。
そして時は進み千年後、2018年。
「ナマエか?ナマエだろう!?ナマエだなぁっ!!!」
「え、何誰!?」
虎杖悠仁の身体をもって現代に受肉した両面宿儺、千年ぶりに再会したペットにテンション爆上がり。急な宿儺の暴走に困惑の虎杖悠仁、記憶もなく転生していたナマエも困惑。
場は混沌を極め、それは補助監督の伊地知がくるまで収まることを知らず。
主人の許可なく死ぬなど万死に値するぞなんて、いや主人ってお前この人とどういう関係なわけと、悠仁は頭を抱えた。
後に人はこれを「両面宿儺名前三段活用事変」と呼ぶ。