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高校2年生のナマエには、気になっている人物がいる。
その人の名前は高柳、クラスメイトである。
前世の記憶がある、と言われたら一体どれほどの人が信じるのだろうか。
ナマエには、前世の記憶がある。
大抵の人はそんなことを言われても信じないだろう。
ナマエだって、人からそんな事言われても信じられない。
けれど真実、ナマエには前世の記憶があった。
きっかけというきっかけも特になく、幼稚園に上がる頃にはもう既に漠然と前世の記憶というものを自覚していた。そのせいか、子供らしい子供とは言えない幼少期を過ごし、現在まで生きてきた。
前世のナマエは、どこにでも居る普通の男だった。
強いて挙げるなら多少オタク気質で、スクールカーストで言う所の中の下。
打ち上げには顔出しするけど、二次会には行かない。そういう本当に普通の人間だった。
ちなみに死因は事故死。
三十路半ば、サラリーマンとして可もなく不可もなく働いて、それなりに長い付き合いの恋人も居て、そろそろ結婚を視野に入れ始めた頃の事だった。
帰宅途中に居眠り運転の車に轢かれてそのままお陀仏。
そうして気が付けば、人生2回目の高校生活。
三十路の頃の体より、圧倒的に軽い十代の体のなんと素晴らしきことかと、自分なりに今の生活を謳歌していた。
そんな時、クラスメイトとして出会ったのが高柳である。
長くなったがここで前世の記憶が関わってくるのだ。
なんという偶然なのか、高柳が前に読んでいた漫画の主人公にえらく似ているのだ。何なら名前も一緒だった。
漫画のタイトルは残念ながら覚えていないが、そこで高柳は倫理の教師をしていて、多感な時期の悩める学生達と話し、倫理とは何か、より良い人生とはについて考える内容だった。
漫画を手に取ったのは偶然、それでもその内容にあぁ、こんな考え方があるのか。と気が楽になったのも確かだった。
まぁ、そんな特殊な経緯でナマエは高柳に話しかけるようになったのだ。
最初はノリだったのだが、今は高柳そのものが友人として好きだった。
高柳の傍は居心地が良かったのだ。精神が三十路のナマエにとって、十代の若々しいキャピキャピとしたテンションはどうも辛かった。それにかわって高柳は落ち着いていて、気が楽だった。
高柳自身、あまり感情を大きく表に出す人じゃないのでどう思ってるかは知らないが、少なくとも嫌われてはいないと思う。そう思いたい。
そんなある日の放課後、ナマエと高柳は2人教室に残っていた。
高柳は日直だったのだが、相方の子がバイトやら何やら用事が出来たとかで先に帰ってしまったらしく、見かねたナマエも残った。
と言っても、高柳が日誌を書くのを手伝うでもなく、ただ正面に座り見ているだけなのだが。
「ナマエ君は、何故僕に構うんですか」
ポツリと、そう高柳が零す。
何を考えているのか分からない、黒々とした目が、日誌からすっとナマエに移る。
実は俺前世の記憶があって、そこで読んでた漫画のキャラに君が似ているからだ〜なんて言えるわけでもなく、というかそんなこと言った日には変人飛び越えて狂人認定されてお別れだろう。ただどう乗り越えようかともごもごと口を開閉させているさまを、高柳はじっと見つめていた。
「え、あ〜……高柳さぁ、俺の恩人?に似てんだよねぇ。なんだろ、雰囲気とか見た目とか……悪い、嫌だった?」
しどろもどろに答えて、後はへらへら笑って誤魔化す。
その間も高柳は視線をそらさない。妙な沈黙が居心地悪い。
「……いえ、嫌ではないです」
沈黙の後、やっとそう喋った高柳にほっと胸を撫で下ろした。
けれどその後に続いた「けど、」という言葉にん?と首を傾げた。
「いつか、その恩人ではなく、僕自身を見てもらえるように努力します」
そう言って高柳の手がするりとナマエの手を一瞬撫ぜて離れていった。
珍しく高柳が笑みを浮かべていて、それに思わず目を見開いた。
「改めて、これからもどうぞ末永く、よろしくお願いしますね」
「へ、あ、はい。こちらこそよろしく……?」
そうして再び高柳の顔が日誌へ移る。
あれ、俺これもしや何かやばいのでは?なんて前世分足して長く生きた脳みそがそう直感を告げていた。
2人だけの教室に、カリカリとペンを走らせる音だけが響いていた。