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夕焼けの草原、その城内。2人の子供が向き合っている。
1人は草や泥にまみれ、もう1人は品質の良い一目見てお偉い立場と分かる子供。
「……誰だ、お前」
「お前こそ誰だよ」
それがそんな世界一の怖いもの知らずであるラーテルの獣人ナマエと、第二王子であるレオナの初めての会話だった。
──────────
「まぁ、今思えば王家に不法侵入して、1番初めにバレたのがレオナで良かったよねぇ」
「いや、ハチャメチャ過ぎじゃないっスか?」
若干引いた様子のラギーの目の前で、そう?と首を傾げる彼は、サバナクロー寮生でラギーの先輩、ナマエ。
なんとあのレオナ・キングスカラーの親友という男だった。
その当人であるレオナは、ラギーに買ってこさせた昼のデラックスメンチカツサンドをとっとと食べ終わると、ナマエの横でおやすみ3秒で眠りについていた。
そんな唯我独尊、俺様何様レオナ様なくせして、誰よりも繊細で率直に言って面倒くさい性格をしているレオナと、楽観的で自信家のナマエという一見相性の悪そうなこの2人が、何故親友という関係になったのか興味本位で聞いてみれば、ナマエが王家に不法侵入してそれを見つけたのがレオナという何ともアホというか、1歩間違えれば投獄ものの2人の出会いに、ラギーは何故これで2人が今の関係に落ち着いていたのかと更に頭を悩ませた。訳が分からない。
「そもそも、なんでナマエさんは王家に不法侵入なんてしたんスか」
「度胸試し!」
ラギーのもっともな疑問に、そうナマエがあっけらかんと答えた。
度胸試しで王家に不法侵入するあたりが、さすがギネス級の怖いもの知らずなラーテルの獣人なだけある。
「度胸試しで普通王家に不法侵入します?そこがナマエさんっぽいつーか、そんな感じはするっスけど……」
「さっきっからうるせぇぞ」
ぐるる、と僅かに低い唸り声をあげながら、レオナのグリーンアイが薄らと覗いた。
「おっ、レオナおはよ。ラギーが俺とレオナの出会いっていうの?気になるんだって」
言いながらレオナの長い髪を無遠慮に撫ぜる。時折その手が耳を掠めてもレオナは何も言わない。それどころか先程の唸り声とは明らかに違う、ゴロゴロとした喉鳴らしさえしている。
これがナマエだから許されていることであって、他の奴らがやったならば一瞬で流血沙汰まったなし。というかそもそもレオナがそう簡単に自身に触れさせることさえしないと思うし、そんなバカもそうそういないのだが。
ラギーは知っている。レオナのナマエを見る目が、時折熱を孕んでいることを。
それは決して親友という存在に向けられるようなものではない。
レオナのそれは普通の人ならば気づかない程度には、深く隠されている。けれど、スラムで生きてきたラギーは人を観察する術にたけていて、それが故に気づいてしまった。
ナマエは気づいているのだろうか。自分に向けられている熱に。それとも気づいたうえで何もしていないのだろうか。
この怖いもの知らずがレオナに対してどんな感情を向けているのかまでは分からないが、そこをつつくのは薮蛇である。
ラギーは誰よりも強かで賢かった。
「つーかレオナさん!アンタ次の授業またサボるつもりっスか?」
「チッ……次は別に必修じゃねぇだろうが
ナマエ、お前もサボれ」
そう言うとレオナはぐいっとナマエの肩を引き自身の隣へ倒すと、尻尾を腕へと巻き付けそのまままた目をつぶって寝る体勢をとってしまう。
こうなったレオナは、梃子でも動かない。
ラギーのユニーク魔法を使えば強制的に授業に参加させることも出来なくはないが、それをすれば後が怖い。
ラギーは仕方ないとため息をついた。
「……またダブっても知らないっスからね」
その言葉にも、レオナはふんっと鼻を鳴らすだけだ。
じゃあ俺は真面目に授業受けてくるんで。
そう言って立ち上がったラギーに、いってらーと手を振れば、後に残されたのはレオナとナマエの2人きり。
レオナがサボる時、だいたいにして7割型強制的にナマエもおサボりコースに引きずり込まれている。
「ねぇ、レオナ。俺までまた留年しそうなんだけどさ」
「……嫌か」
少しの間の後に発せられたそれは、レオナにしては探るようなどこか弱々しさを孕んだ声音だった。
薄く開かれたこちらを見つめるレオナのグリーンアイがゆらりと揺れているのを見咎めると、へらりと笑いかけてやる。
「んーん!レオナと一緒なら別にまた留年しても良いよ。楽しいし」
その言葉に安心したようにレオナはまた目をつぶると、ナマエの体を抱え込むようにして抱き寄せた。
「あははっ!レオナ甘えんぼさんじゃん!」
「うるせぇ」
レオナとナマエは親友である。
けれどレオナがナマエに向ける感情は、きっと何より重く深い。もしかれすばそれはもう、親友という枠組みを超えているほどに。
第二王子という立場も何も関係ない。
ただ2人の獣が、寄り添い眠っている。