輝く君へ
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マスターから差し出されたそれに、牛鬼は胡乱な目を向けた。
「よかったらチョコどうぞ」
「……あぁ、西洋の祭りごとだったか」
2月14日、バレンタイン。
日本では主に女性から、チョコレートと共に秘めた愛を伝える日。
愛、と一言にいっても恋愛のそれから親愛や友愛の類も含まれているのだが。
ここ数日、カルデア中に漂っていた匂いの原因はこれか、と合点がいき牛鬼は目を細めた。
「うん、お世話になってるお礼に」
マスターから受け取ったチョコの小箱を眺めながら、牛鬼がふんと鼻を鳴らす。
喜んでいるのか、機嫌を損ねたのかいまいち分かりづらい態度ではあったが、一先ずは受け取って貰えたので藤丸は良かったと内心で独りごちた。
「まぁ、貢ぎ物として貰っておこう」
なんてやりとりがあったのは3日程前の事。
藤丸のマイルームに届いたノック音。
それに返事をする間もなく扉が開いた。
「うむ、居るな。では受け取れ」
「え、あ、え!?牛鬼さん!?」
マイルームにやってくるないなや、牛鬼は驚く藤丸の様子など意に返さず、ぽい、と軽い調子で何かを投げつけた。
一瞬キラリと光って見えたそれは弧を描いて、反射で伸び出た藤丸の手のひらに収まる。
「ガラス玉?」
白色の組紐に通された、指の先ほどの大きさに藤丸の目と同じ色のガラスの玉。
玉をよくよく見てみればそういった模様なのか、中に見事に咲いた花が閉じ込められていて、照明の光を反射してはキラキラと光って見えた。
「……綺麗ですね」
「蜻蛉玉だ。吾が作った」
「牛鬼さんが!?」
まさかのことにぽかりと口を開けて牛鬼を見る。
当の本人は面倒くさいという顔を隠しもせず口をへの字に曲げていて、どう考えても進んでこれを作ったという風には見えなかった。
「主から贈り物をいただいたのに、なんの返礼もしないなんて〜などと連日騒ぐ奴が居てな……喧しくて敵わんからくれてやる」
やれやれ、とため息をついている牛鬼だが、基本的に他人の言葉を素直に聞き入れるようなタイプではない。
時には気まぐれでマスターの指示さえ無視をする。
そもそも、それが牛鬼という存在だからだ。
そんな牛鬼が喧しい、面倒くさい、とはいいながらもその言葉を受け入れたのは、それを言った相手が牛鬼にとって少なからず特別な尊大だったからだろう。
藤丸はその存在にほんの少しだけ心当たりがあった。
「ありがとうございます、牛鬼さん!それから、牛鬼さんの中の人も」
藤丸の2人に向けられた礼の言葉に、牛鬼は僅かに目を細めた。
「……あぁ、たまにはまぁ、良かろ」
そう言った牛鬼の口角がほんの少しだけ上がっているように見えたのも一瞬、ひらりと片手を上げて牛鬼は姿を消した。
1人残されたマイルームで、ベッドの上に腰を下ろす。
蜻蛉玉を指で丁寧に摘み上げると、照明の明かりにかざす。光が蜻蛉玉を通ってそのガラスの色と同じ色を落としながらチカチカと輝いて、藤丸は暫くその光に魅入っていた。
2月14日
誰も居ないカルデアの廊下を、特に行くあてもなく歩く。
ほんのつい先程、マスターである藤丸立香から受け取ったばかりのチョコの小箱へと視線を落とす。
「……バレンタイン、か」
サーヴァントの肉体を得た時に与えられた現代の知識には、当然ながらその祭りごとに関する事も存在していた。
聖バレンタインデー、愛と親愛とを祝福する祭りの日。
現代日本においては、チョコレートと一緒に秘めた想いを伝える日でもあるのだとか。
それは例えば、随分長い間に胸の奥の奥、深くて1番柔い部分に隠して仕舞いこんでしまっているような恋心の、そのほんの少しでもを表に出す切っ掛けになるような、僅かにでもその背を押してくれるような日になり得たのだろうかと、そう考えて牛鬼はハッ、とその思考を一蹴するように歪に笑った。
「くだらん」
そんな祭りの日は、あの時代、あの場所に存在しなかった。
恋心は伝えられることもなくしまい込まれたまま、それでもどうしようもなくキラキラと輝いて、あの日の牛鬼の目を奪ったのだ。
それ以下でも以上でもない、ただそれだけが事実として存在している。
まぁ、あの無駄にキラキラしい金髪童がこういう類の細やかさを理解できると思わんが、なんて八つ当たり気味に考えてチッと舌を打った。
そんなことを考えながら、牛鬼は意外に丁寧に包み紙を開けて、一摘みチョコを口に放り込んだ。
「うむ、甘いな」
舌の上で溶ける甘味に、まぁ悪くはないか、と思いながら次へと手を伸ばす。
そうしてチョコを空にした牛鬼が、次の日になっても藤丸へお返しどころかお礼の一つも言わない事にナマエが怒り出し、ちょっとした口論の末に牛鬼は蜻蛉玉を作ったのであった。
ちなみに後日、通りがかりの陰陽師から「その蜻蛉玉、中々に強力な呪いが施されておりますな……具体的に申しますと、敵に向ければ相手は呪われて死にます」との指摘を受け藤丸は滝のような冷や汗をかくことになるのだが、これは完全なる余談である。