うつけ者のてふてふ
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カルデアにも等しく夏はくる。
デッドヒート・サマーレース、金星の女神イシュタルから提案されたそれは、特異点を防ぐこともできる、夏の暑さに辟易としたサーヴァントとマスターにはピッタリとしたイベントだった。
その盛り上がりは、レースに参加するメンバーは勿論のこと、応援する方も同じであった。
そしてそれは、レースに参加するメンバーの関係者ならばなおのこと。
「濃姫さん、その団扇はいったい……」
濃姫の両手に握られたのは2つの団扇。
それもただの団扇ではなかった。団扇はキラキラと装飾され、大きく「負けないで」「信長様」の文字。
それはまさに、アイドルのコンサートでよく見る物であった。
「はい。昨夜、茶々さんと一緒に作ったのです。現代ではこうやって団扇を飾り、文字を書いて応援するのでしょう?」
そう言ってにこやかな笑みを浮かべ、ヒラヒラと団扇振る濃姫に、立香は曖昧に笑うことしか出来なかった。
「さぁ、みんな位置について!そろそろレースを開始するわよ」
イシュタルからの集合の合図に、皆の注目はスタート地点に1列にならんだレース参加者へ集まった。
濃姫は所定位置についた信長へ、精一杯の声援とともにお手製の団扇を振る。
それに気がついた信長が、ロケット型のマシーンの中から、満面の笑みで手を振り返した。
「帰蝶ーー!!待ってろ、見事このワシが優勝をモノにし、其方をアリーナへ連れて行くからな!」
「はい、信長様!帰蝶は信じております」
相変わらずの2人のイチャつきっぷりに、立香は甲子園みたいだぁ。と、ただ乾いた笑いを漏らしたのだ。
その後、レースはどうなったのか。
途中様々な妨害にあったり、何故か監獄からの脱獄になったりと様々な出来事があった。
しかもこのレース自体が、イシュタルが新たな天の牡牛を生み出すための儀式だったりしたのだが、結局はマスターとサーヴァント達に阻止され、イシュタルは深く、それはもう深く反省したのであった。
しかして、優勝は誰のものになったのかと言うと……
「ロックンローール!!ワシの歌を聴けーーーーー!!!」
「キャーー!信長様ーーー!!」
「こんなところで、1人コンサート開催しないでください!濃姫さんも盛り上がらないで!」
1部の日本サーヴァント達が集まる和室。
もはや刀の形のない、エレキギターへと姿の変わったへし切長谷部をかき鳴らす。
何てったってNO.1。宣言通り、優勝は渚の第六天魔王Xチームのものとなった。やはりロケットは速かった。
そんなこんなでハイテンションでロックンロール。観客はお手製の団扇を振る濃姫だけ。後は呆れてツッコミを入れる沖田とケラケラと笑ってヤジを飛ばしている茶々、そして我関せずにポリポリと沢庵を齧る土方というぐだぐだメンツである。
「まぁ、いいじゃん。どうせ伯母上のことだから、あの女神のところから財宝の10や20、取ってきたんでしょ?
茶々欲しい物あるし、伯母上に貸した金も利子付きで返してくれていいよ!」
そう言って指折り欲しい物を数え始める茶々に、沖田もそうですよ!と信長を指さした。
「ノッブがうちから勝手に借りた資金も、返してくださいね!土方さんが沢庵買いすぎたせいで、うちも苦しいんですよ」
やっと金が戻ると安堵する2人に、信長は満面の笑みを浮かべた。
「財宝、無いよ!」
「「え……?」」
清々しいまでの無一文宣言に、茶々と沖田は驚き信長を見つめる。
「ロケットの修理代と、帰蝶とのデート代で使い切った。いやー、久々のデートで張り切りすぎたな!」
「……すみません」
許せ!と豪快に笑う信長とは反対に、濃姫は申し訳なさそうに頭を下げた。
いつの間にやらデートに出かけていたらしいバカっぷるに、2人の怒りがおさまるはずもなく。
「……絢爛魔界」
「……無明」
メラメラと焔を纏いだした茶々と、1歩、2歩とステップを始める沖田に信長の顔がとたんに青ざめる。
「まっ、待て2人とも!!駄目じゃ、逃げるぞ帰蝶! 」
「は、はい信長様!」
急いで濃姫の手を取り駆け出す信長の背後ギリギリで、ドンッと焔と刀による突きの激しい音と衝撃がした。
「「逃がすかーーーーーー!!!」」
幾度も響く爆音と爆風を背に、自分の手を引き必死に走る信長に、濃姫は生前ありえなかったこの現状に思わず笑みをこぼせば、振り返った信長も釣られて笑い声をあげた。
このぐだぐだな日常が、今は何より愛しかった。