それはn回目の
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「好きです!」
初めましての挨拶より先にそう返ってきた告白に、衛宮士郎はぽかんと間抜け面を浮かべていた。
ナマエと衛宮士郎はクラスメイトであり、友人である。
少なくとも、士郎はそう思っている。
たとえ相手から毎日幾度も好きだと告白され、好意をアピールされようと、士郎の返事は変わらずに「ごめん」の3文字。
それでもナマエはめげずに告白し続ける程士郎を好いている。
それが周りの認識でもあり、士郎自身も好きだ好きだとアピールされ続ければ、嫌でもそうだと認識していた。認識していたはずだった。
あの日。ナマエがアーチャーに押し倒され、告白されたその姿を見た時から妙なもやつ気がある。
けれどその正体も分からずに、ただ首を傾げては日々をやり過ごしていた。
「それ、どうしたんだ」
机の上に広げられた弁当箱。
ナマエはいつも、藍色の弁当箱を使っていたはずだが、今日出されたのは赤茶色の弁当箱。ご丁寧にスープジャーまで付いていた。
士郎の問いにナマエはどこかもごもごと、困った様な、照れているようなそんな表情を浮かべて、どこかざわりとした嫌なものが士郎の胸を過った。
「昨日さ、買い物してたらたまたまアーチャーさんに会って、何か話してるうちにお弁当作ってくれる、ってことになって……」
ぱかりと開けた蓋。サンドイッチにメインはミートボールだろうか、オムレツにポテトサラダ、ほうれん草とベーコンのバター炒め。スープジャーにはコンソメスープが入っていて、まだ温かそうだ。
「わ、美味しそう……」
ふわりと、そう笑ってナマエが言う。何故だろうか、胸がぎしりと痛む。
普段は士郎を見ているはずのその目は、アーチャーの作ったお弁当に注がれていて、思わず「ナマエ」と口から漏れた。
「お前、卵焼き好きだったよな?ほら」
ナマエの口に卵焼きを突っ込む。
きょとりと目を丸くしていたナマエは、卵焼きを咀嚼するとふにゃりと笑みを浮かべた。
「俺士郎の卵焼き好きなんだよね!というか今!今、あーんしてくれたよね!?」
ナマエの関心はすっかり士郎の方へ移っていて、それにホッとしてしまったのは、何故なのだろうか。
それはこの日、1番見たくない顔だった。
バイト帰りであった士郎はその人物に気づいた途端、ぐっと顔を歪ませた。それは向こうも同じだったが。
「……アーチャー」
片手に買い物袋を下げたその男の名を呼ぶ。
「お前、弁当なんか渡してどういうつもりだ」
「どういうともりだ、とは」
あくまでシラを切るつもりなのかと、アーチャーを睨みつけ、吼えた。
「ナマエは何も知らない一般人なんだぞ。お前の感情で、ナマエを振り回すなよ。ナマエはお前の告白を受けないんだから」
ぴくりとアーチャーの眉が動く。
その目が責めるように、士郎へ向けられた。
「ナマエが私の想いに応えないと、なぜ言い切れる」
ナマエは、俺のことが好きなんだ。
毎日好きだと伝えられている。それなのに、ふと昼間のアーチャーからのお弁当に笑う、ナマエの顔が脳裏を過ぎる。
「ナマエからの告白を断り続けている貴様に、ナマエを縛り続ける権利等あるはずないだろう」
正論だった。
アーチャーとナマエの関係が恋愛のそれになったとて、士郎に何かを言う権利はない。
ナマエが明日も、明後日も、明明後日も、士郎に好きだと告白してくれる未来が、士郎にとっての日常が、途端にひどく不確定なものだと気がついて、スっと爪先から冷たく凍えるような感覚に襲われる。
「そうやってナマエの好意の上で胡座をかき続けているから、喪うはめになるんだ」
忌々しいと、不愉快だと隠しもしない声色で吐き捨てるように言って、士郎の横を通り過ぎていった。
俺はナマエを、どう思っているんだろう。
一般人のナマエと、サーヴァントであるアーチャーが関わり合いになって、ナマエが巻き込まれてしまうのが、嫌だった。
友達として、ただ純粋に心配なだけ
ただ本当にそれだけ
でもただ本当にそれだけで、こんなにも感情が揺さぶられてしまうものなのだろうか。
冷静な部分の自分が、もうとっくに答えを出していて、けれど士郎にはそれをうまく受け入れることが出来ない。
「今更、どの面下げて言えばいいんだよ……」
苦しげに吐き出す。
だってそうだろう。今まで散々告白されてはフッてきたのに、それを今更実は俺もお前が好きなんだ、だなんてあまりに都合がよすぎるじゃないか。
今すぐにでもナマエに会いたいのに、会えなくて、会いになど行けなくて。
そんな自分がひどく惨めで、好きだと伝えられるアーチャーが羨ましかった。