うつけ者のてふてふ
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濃姫は姫であり信長の正室であるが、れっきとした男である。
白い肌に艶やかな黒髪、薄く紅の引かれた唇にスラリと伸びた手の先の桜貝のような爪。
どこをどう見ても美女そのものの姿に、カルデアの廊下で、ダビデはもったいないなぁと小さく息を吐いた。
「君が女性なら、アビジャグだったのだろうけど……いやぁ、実にもったいない。もったいないなぁ」
「ええっと……」
困ったように眉尻を下げる濃姫の黒髪へ、ダビデが手を伸ばした瞬間、それを遮るようにダビデの手すれすれを銃弾が飛んでいった。
「あっぶないなぁ!何するんだい君」
銃弾の主は怒りに顔を歪めた濃姫の夫、織田信長である。
廊下で発砲するなという声は、今の信長には聞こえない。
「喧しい!貴様の方こそ、そのやらしい目で帰蝶を見るでないわ!減る!帰蝶が減る!!」
信長は二人の元へ駆け寄ると濃姫の肩を抱き寄せた。
その時、抱き寄せられた濃姫の頬が淡い朱に色つくのを、ダビデはしっかりと気づいて、あーあと残念そうに首を振った。
「しょうがないなぁ、お邪魔者は撤退することにするよ
またね、アビジャグかもしれなかった人」
「ええい!帰蝶はワシの妻じゃ!!二度と来るでないわ!!」
ヒラヒラと手を振るダビデの背に、信長がそう吼えるのを聞きながら、濃姫は抱かれた肩に熱が集まるのを感じては、益々顔を朱くした。
・
濃姫の口からため息が漏れるのを、マスターである藤丸立香は聞き逃さなかった。
「珍しいね、濃姫さんがため息つくの。良ければ話聞くよ」
一人食堂の隅の席に座っていた濃姫に、温かなお茶の入ったコップを差し出すと、立香はそのまま向かいの席へと腰かけた。
「あぁ、ありがとうございます、マスター様。いえ、たいした事ではないのですが……」
差し出されたコップを受けった濃姫は、自分の悩みを打ち明けるべきか、ゆるりと目線を机へと落とした。
「濃姫さんが話したくないって言うなら、無理には聞かない
でも、話してみたら案外楽になるかもよ?」
そうヘラリと笑うマスターに、濃姫はそれもそうですねと、ポツリポツリと口を開く。
「実は、近頃沖田様と信長様が共にいらっしゃるところを見かけると、こう、胸にもやがかかったような、ざわつくような……そんな気持ちになってしまって」
不安そうに零す濃姫に、神妙な面持ちで立香はうんうんと頷いた。
「沖田様と信長様は、以前に交流がお有りになったとかで、とても仲がよろしく、沖田様とお話になっている時の信長様はどこかいつもより楽しそうで……
信長様が笑っていらっしゃるのならば、私も嬉しい筈なのですが……その笑顔の先に沖田様があるのだと思うと、上手く喜べず、それどころか悲しさすら覚えてしまうのです。
これはいったい何なのでしょうか、マスター様」
濃姫の話を聞くに、濃姫は沖田と信長が一緒にいると嫌な気持ちになってしまう。その気持ちの正体が分からず悩んでいる、とそういうことだった。
だが、傍から聞くとその気持ちの正体はどう考えても、あれしかなかった。
「それって嫉妬、なんじゃないかなぁ」
「嫉妬……ですか」
濃姫は嫉妬という言葉にぱちくりと目を丸くする。
思いもよらなかったという風であった。
「濃姫さん、嫉妬したことないの?」
その様子に立香がそう問いかけると、濃姫ははい。とゆっくり頷いた。
「生前は、その、信長様への想いを抱き自覚するのが遅く……嫉妬、などといった事をする時間は無かったものですから
ですが、マスター様のおかげでこの感情が嫉妬と分かったのならば、沖田様と信長様にご迷惑をおかけする前に、どうにかしなくては……」
うんうんと悩み始めた濃姫に、立香はノッブの事だから濃姫さんが嫉妬とかしてるって聞いたら逆に喜ぶんじゃ……
そう言おうとしたまさにその瞬間だった。
「話は聞かせてもらった!!!」
その言葉と共に、食堂の扉から勢いよく現れたのは、噂をすればなんとやら。信長本人であった。
「信長様!?いつからそこに……」
戸惑う濃姫を、信長が思いきり抱きしめる。
突然の事に濃姫はあわあわと顔を真っ赤に染めた。
「帰蝶!おぬしは本当に愛いやつじゃな!!
ワシと沖田の仲に嫉妬してたとか、可愛すぎるじゃろ!!」
「信長様、恥ずかしゅうございます……!」
愛い、愛い。と濃姫を抱きしめる信長と恥ずかしいと言いつつ、嬉しそうな濃姫。
問題が解決して良かった筈なのに、目の前でイチャつき出したバカップルに、立香は静かに席を立った。
勝手にやってろバカップル!!!!!