運命
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衛宮士郎という男が嫌いだ。
誰彼構わず、困っている人がいれば助ける。
見返りも何も求めない、自己犠牲のような無償のそれが、俺には気持ち悪くて仕方なかった。
周りの人が、「衛宮はいい奴だ」と言って助けを求めるのも嫌だった。
1度放課後の教室で、衛宮と2人きりになったことがあった。
俺は忘れ物を取りに戻って、衛宮は夕暮れに染まった教室で1人、日誌を書いていた。
もう1人の日直の当番は、先に帰ったらしかった。
早く帰りたくて無言で机をあさる俺に、衛宮があのさ、と声をかけた。
「ナマエって……俺のこと、避けてるよな。俺、何か気に障るようなことしたかな」
こちらを伺うような視線、微かに震える声。
他のやつなら、何故避けるのだと理不尽さに怒るようなところを、衛宮は自分に非があるのかと、自分が悪いように聞いてくるその発言に苛立ちを覚えてしまう。
「嫌いだよ、お前なんて」
それだけ言って教室を出ようとしたその一瞬、視界に映った衛宮が泣きそうな顔をしていた。
学生生活を終えて数年、俺は戦地で医者の真似事をしていた。
仕事先で再開した衛宮は、相変わらず人のために尽くして生きていた。俺はやっぱりそんな衛宮が嫌いだし、衛宮は最初俺を見てひどく驚いた顔をして、それからは出会う度にこちらに視線を向けてきたが、俺はそれを全部無視した。
いつもと変わらない戦場
大嫌いな衛宮へ、一直線に弾丸が飛んでいって
それで俺は
「なんで……」
あの日の夕暮れの教室と同じ震える声で、衛宮は血濡れで倒れ込む俺の傍に跪いた。
「嫌いなんだろう……どうして……どうして庇った……」
弾丸は衛宮の腹ではなく、俺の腹を貫いていた。
心底分からないと、疑問と絶望がごちゃまぜになった顔に、笑いがこみ上げてくる。
「嫌いだよ、お前なんて……他人ばっか……助けて、自分は後回しで……犠牲にする……ほんと……そういうとこが……大っ嫌いなんだよ……」
衛宮の顔が、霞んでよく見えない。
「手伝ってくれって……助けてくれって……それくらい……言えよ……ばかやろう……」
誰かが、息を飲んだ音がした。
大嫌いだった、衛宮士郎のことが。
1人で何もかも抱え込んで、周りを助けて自分1人だけが傷ついて。
見ていられなかった。一言手伝ってくれと、助けてくれと言って欲しかったんだ。
だから嫌いだった。
手伝わせてもくれない衛宮士郎が、本当に大嫌いだったんだ。
それこそ、弾丸の的を変わってやるくらいには、大嫌いなんだ。
大嫌いなやつに看取られながら、俺は静かに目を閉じた。