運命
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僕は犬だ。犬種はブルドック。
住まいはロンドン、ベイカー街にあるアパートの2階で、家族は2人。
1人はご主人のジョン・ワトソン、そしてもう1人は……
「ヴァウ」
「……見逃してはくれないか」
今目の前で、薬に手を出そうとしている男。
唯一の顧問名探偵、シャーロック・ホームズである。
その薬はコカインと言うんだろう。ご主人が悪い薬だと言っていた。ダメだぞ、ホームズ。
近頃は事件も起こらず、暇を持て余していたホームズは度々薬に手を出そうとしたり、室内射撃をしようとしていた。
それを止めるのがご主人と僕の役目である。
薬を取り上げると、代わりにリードを咥えてホームズの前におすわりした。
部屋にずっといるから、気が滅入ってしまうのではないだろうか。一緒に散歩にでも行こう。
ホームズは一つため息をついて、仕方がないといったふうに笑った。
「まぁ、たまにはいいだろう」
1人と1匹。
リードを握ったホームズの隣を、僕はゆっくり歩いた。
ついでにお肉屋さんで、ハムでも買ってくれたら嬉しいです。
────
第4特異点、ロンドンで小さな異常が見つかり、マスターである藤丸立香、後輩のマシュ・キリエライト、そしてルーラー、シャーロック・ホームズの3人で調査に来た帰りだった。
ふと、ホームズが1点を見つめていることに気づいた。
「ホームズ、何見てるの?」
ホームズの視線の先には1件の肉屋。看板には肉屋にしては珍しい、ちょこんと座った犬のマークが彫ってあった。
「お肉屋さん、ですか」
「あぁ、あいつはここのハムが好きでね」
懐かしそうに目を細めるホームズに、藤丸もマシュも珍しいホームズのその表情を不思議に思った。
「あいつって?」
藤丸の問いに、ホームズはゆっくりと口を開いた。
「グラッドストーンだよ」
グラッドストーン?と聞きなれない名前に藤丸は首を傾げるのと反対に、マシュはあぁ!と手を叩いた。
「グラッドストーンはワトソン先生が飼っていた犬です。ブルドックの子犬なのですが、途中から原作での登場がなくなってしまって」
「あれは本当に賢い犬だった。よく薬が見つかって没収された」
やれやれとため息をつくホームズに、藤丸とマシュは犬にまで注意される探偵とはと、微妙な気持ちになった。
「けれど、あれと歩くのは嫌いではなかった。グラッドストーンは良い犬だったよ」
そう言ったホームズの横顔は、柔らかな微笑みを浮かべていた。
「大切な存在なんだね」
何故か嬉しそうな藤丸に、ホームズはくつりと喉を鳴らした。
「さぁ、どうだろうね」
それだけ言って歩き出したホームズの背を、藤丸とマシュは笑って追いかけた。
3人で歩くロンドン。
ホームズの耳に、あの愛しの犬の鳴き声が聞こえたきがした。