運命
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ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを殺したのは、私だ。
その衝撃的な告白は国中を駆け回り、多くの人々を驚愕させた。
自らの罪を告白したのは、アマデウスと同じ音楽家の1人だった。
何故、アマデウスを殺したのか。
才能溢れる彼が憎かったから。
何故、今更名乗り出たのか。
何の罪もないサリエリを、根も葉もない噂で犯人だと思う人々が、あまりに間抜けで哀れだったから。
そう言って嘲笑を浮かべる男に、人々は怒り、罵詈雑言と石を浴びせた。
「本当に、君が殺したのか」
檻の向こうの男に問いかけるのは、つい最近まで犯人だと囁かれていた無実の人、アントニオ・サリエリ。
サリエリに男は、にんまりと笑ってそうだよと肯定した。
「何故、殺したんだ」
「知ってるだろ?あいつの才能が憎かったからだよ」
「何故、今更名乗り出たんだ」
「それも知ってるだろ?騙されてる馬鹿な奴らが、哀れに思えたからだ」
「……確かに人々は、私が犯人だと疑った。けれどだからこそ、君が名乗り出る理由はなかった。このまま私が犯人だと疑われていれば、君は無実のままだった」
「………………」
男は何も語らない。
「本当に、君が殺ったのか?本当は君は……」
「サリエリ」
話を遮り、男はじっとサリエリを見つめた。
その顔に、穏やかな笑みを浮かべて。
「私がアマデウスを殺したんだ」
それきり男は口を開かなかった。
サリエリの名誉は回復した、代わりに男の地位は地に落ちた。何なら今まさに、ギロチンの刃が男の首に落とされようとしていた。
それでも男は笑っている。もちろん、死ぬ事が怖くないわけではなかった。けれどこれは、男自身が望んだ結末だった。
男はアマデウスを殺してはいなかった。
それならば何故、男は自分がアマデウスを殺したなどと嘘をついたのか。
男がサリエリを愛していたからだ。
想いを伝える気はなかった。サリエリと自分は同じ音楽家で友人。それで良かった。
曲を奏でるその指が、ヨーゼフ2世にも認められたその歌声と落ち着いた声が、人々を助け善を好むその人柄が、愛おしくて仕方がない気持ちに蓋をして。
だからこそ、サリエリが殺人者と疑われ根拠の無い陰口と疑惑の目に晒されるのが耐えられなかった。
だから、有りもしない罪を告白した。
これでサリエリは、最期まで素晴らしい音楽家としていられる。
男は満足気に笑って、偉大なる音楽家を殺した犯人として、その幕を閉じた。
────
アマデウスを殺した男。
後世に残ったのはその記録だけ。度々それは人々の手によって伝えられ、いつしか真実はネジ曲がっていった。
「サーヴァント、アヴェンジャー。神の愛し子を殺した真犯人。アマデウスはいる?いるなら、殺してしまわないと」
へらりと軽薄そうな笑みを携えて、新たに召喚されたサーヴァントは言った。
アマデウス、殺す。 という言葉に、マスターが緊張するのがわかった。そんなマスターの隣、驚いたように目を見開く男。彼には見覚えがあった。忘れられるはずもない。
「…………サリエリ」
その名を呼んだ途端、強い衝撃がはしった。
サリエリが男を抱きしめたのだ。
「ちょっ、サリエリ!?」
アマデウスと友人にあるサリエリが、この新しいサーヴァントの言葉に敵対心を抱くと思っていたマスターは、その真逆の行動に酷く驚いた。
「……離せ、サリエリ。アマデウスを……アマデウスを殺さないと……。私は真犯人なのだから」
虚ろな瞳で呟く男を、サリエリはさらに強く抱きしめた。
「離すものか。君を本物の殺人者にする訳にはいかない」
サリエリは非力な、ただの音楽家サーヴァントの1人にすぎない。それでも、離すわけにはいかなかった。
彼に罪を犯させるわけにはいかない。
だってサリエリは、男のことを愛しているのだから。