運命
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壁と腕の間に閉じ込めた自分より僅かに下にあるナマエの顔を覗きこんだアキレウスは、たいそう不機嫌ですと言わんばかりに眉間に皺を寄せていた。
「お前、最近俺の事避けてるだろ」
「あ、え、いや……別に避けてなんか」
うろうろと彷徨って合わない視線に、アキレウスはそんなはずないだろうと口を尖らせた。
確かにカルデアには多くの英霊もマスター含め職員達も在籍していて、自分以外の誰かと一緒に居る時もそれはあるだろう。マスターとの素材集めやら戦闘訓練やらで会わない日もあるだろう。
だからと言ってこの1週間でアキレウスとナマエがした会話といえば「やぁアキレウスそれじゃあまたね」のみで、それも一方的にそう言い残してナマエはあれ用事だなんだと姿を消してしまう。
直近で何か喧嘩をしただとか、避けられるような事をした記憶もない。
そんなこんなでアキレウスはナマエにまた逃げられるより先にこうして所謂壁ドンの形で捕まえたという訳なのだが。
とうのナマエは避けていないの一点張りで、どこか挙動不審な態度でさえある訳なのだが。
「と、というかアキレウス、近い……っ!」
「はぁ?」
世間一般的に、確かにこの壁ドン状態はたいそう近い距離感だろう。
けれど普段の2人はこれより距離が近いことなどざらにある。それこそ酒の席では肩を組んだ時などゼロ距離だし、額を突合せて話すことだってよくある。
それなのに何を今更と口を開こうとして、アキレウスはそれに気が付いた。
ナマエの顔が赤い。
サーヴァントなので風邪をひくなどする訳ないし、体調も特に悪そうには見られない。
それならば、顔が赤くなっている理由などほぼ1つ。
ナマエが照れている。
近いと言っているこの距離感に?それこそ前述の通り今更だろう。
そこでアキレウスはふと、ナマエがアキレウスの事を避け始めた頃が丁度アキレウスが服装をこの夏の霊衣に変えてからだと思い至った。というかもうそれしか思い浮かばない。
「もしかして、この服装が原因か」
「え゛!?」
途端に先程より赤くなった顔にアキレウスは当たりか、と目を細めた。
「い、いや!別にそんな……ほんとにあの、ち、違くて……っ!!」
「何が違ぇんだ」
真っ赤な顔にだらだらと汗を流しながらまとめることの出来ていない言葉を吐くナマエを見つめていれば、そのうち観念したのかがっくりと両手で顔を覆って項垂れてしまった。
「……だ、だって、その服、かっこいい、から」
緊張して……そうぽそりと、普段の彼とは思えない小さな声はそれでもこの距離ではなんの意味もなさずにしっかりとアキレウスの耳に届いていた。
普段は鎧で隠れている上半身のボディラインがくっきりと浮かび上がっているし、腕や足と些細な箇所ではあるが露出度も増えている。
アキレウス本人も「あきれうす」の平仮名文字だったり気に入っているものだ。
そうかそうか、つまりナマエはアキレウスのこの夏の霊衣がかっこよくて、緊張やら照れやらでアキレウスを避けていたとそういうわけなのか。
ほーん、と最初の不機嫌は何処へやら口角が上がっていく。
そんなアキレウスの変化になど気付かずに、今すぐこの場から消え去りたい、と本人に暴露してしまった羞恥心からアキレウスを押しのけようとしたナマエの体は軽々と抱え上げると、そのままスタスタと歩き出した。
「ちょ、なに、下ろして!?」
「いや?緊張するって言うなら慣れるまで傍にいればいいだろ。いくらでも付き合うぜ」
にっこりと爽やかな笑顔を浮かべたアキレウスの向かう先が彼の自室だと気付いてどうにか抜け出そうと体をひねらせるが流石はギリシャの大英雄、そんな抵抗などものともせずに何なら宥めるように背を軽く叩かれてナマエはがくりと肩を落とした。
その後、ナマエが夏の霊衣に慣れるまで、というかアキレウスが満足するまでナマエがアキレウスとほぼゼロ距離で過ごす事になるのだった。