運命
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ロマ二・アーキマンは彼との関係を聞かれた時、いつもどう答えて良いのか分からずに曖昧に笑ってやり過ごしている。
彼、ナマエとの出会いは、ロマニがカルデアに医師としてやって来た初日に、当時所長だったマリスビリーに紹介されたのが始まりだった。
ソロモンがその願いを叶え、人となりロマニ・アーキマンとなるその刹那、見えてしまった人類の終わり。
見えてしまったそれを無視することも出来ずに、怯え、足掻き、ロマニ・アーキマンという人間の生きる数年という月日を捧げてきた。
何時、何処で、誰が、どの様に行うのか分からない故に、ロマニは誰にも心を開かなかった。
そんなロマニの閉ざされた心の前にやって来たのがナマエだった。
彼はロマニが誰にも心を開いていないのを察して尚、その心を無理にこじ開けようとはしなかった。
ただ、黙ってそこに居るだけの、ただそれだけの人だった。
だからだろうか、ロマニは彼の傍にいると妙な安心感にも似た何かを覚えてしまう。彼ならば大丈夫だと、根拠も理由もないのにそう思ってしまうのだ。
「また、ナマエ特性ハーブティーを貰っても、いいかな?」
ふらりとナマエの自室へ訪れたロマニがそう言えば、ナマエは薄く笑って「とびきりのをいれてやる」とすっかりロマニ専用になっているカップを並べて、お茶の用意をしてくれるのだ。
ナマエが自ら育てブレンドした茶葉とハーブをティースプーンで掬うと、サラサラとそれをティーポットへ落とし、沸かしたお湯をその中へ注いでいく。
慣れた手つきで行われるそれは、もうすっかりロマニの中で日常となってしまって、蒸らすために置かれたティーポットのお湯の中でくるくると回る茶葉をただぼうっと眺めた。
二人の間に特に会話があるわけではないけれど、不思議とその沈黙が気まづいわけではなく、むしろ穏やかに時間が流れている。
急かされるように、焦るように生きてきた中で、この緩やかな時間は、ロマニにとっての唯一の特別な時間だった。
2、3度、ティーポットをくるくると回すと、ようやくカップへお茶が注がれた。
「ん、出来たぞ」
ありがとう、と1つ礼を述べてからロマニはそっとカップへ口付ける。
胃へ流れる温かさと、口の中へ広がるスッキリとした爽やかさな香りと自然な甘みに、ほうっと息を吐いた。
「うん、やっぱりナマエのハーブティーは美味しいよ」
「そりゃどうも」
ぶっきらぼうに返しながら同じように自分の分のカップへ口付けるナマエがその実、褒められた事に照れているのだと気が付いたのは、一体いつの頃だったのか。
ナマエはロマニが頼めば、温かなハーブティーをいれてくれて、ただ何も言わず、何も聞かずに、そっと寄り添ってくれる。ロマニにとって居心地の良い空間を提供してくれる。
いつだってナマエから貰ってばかりいるのに、ロマニは何はひとつとて返せるものを持ち合わせていない。
勿論、カルデアのドクターとしてナマエに頼られている自信はあるし、ナマエ本人からもそう口にされたこともある。
けれど、けれどそれがこの1杯のハーブティーに本当に釣り合っているのか。それがロマニには分からなかった。
傍から見れば、きっとロマニの仕事の方にこそ、価値がるのだとそう言われるのだろうけど、ロマニにはどうしてもそうとは思えなかったのだ。
もしかすれば、ソロモンとして、王として生きた自分ならば、ナマエに何か返してやれたのだろうか、とふと思う。
けれどそう思う度、人として、ロマニ・アーキマンとして生きた自分の心が、じゅくりと痛むのだ。
向かいでカップに口つけているナマエと、ふと、目が合った。
その目が、まるで慈しむように柔らかく細められて此方を見つめ返してくるものだから、途端に胸が熱くなった。
あぁ、千里眼なんかよりも、余程厄介じゃないか、なんて
その熱ごと飲み込むように、ほんの少し温くなったハーブティーを飲み干した。