運命
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アルジュナにとって、ナマエというのは兄の友人であり、憧れの存在であり、そして淡い恋心を抱く存在でもあった。
お互いに妻がいたし、同性同士である事から生前もサーヴァントとなった今も、想いを告げる事こそし無いが、それでもアルジュナにとってナマエという存在は一等特別でカルナとはまた違った意味で唯一の存在なのだ。
だからアルジュナは、ナマエと距離を置いていた。この想いを知られて拒絶することが何より恐ろしかった。
兄の友人として、そこにほんの少しの憧れを覗かせて、そうして適切な距離でもって接していた筈なのに、それなのに今目の前で繰り広げられている光景はなんなのか。
「ナマエ、もっと近付いても?」
「あはは、良いよ」
ナマエの片腕に両腕で抱き着き、あまつさえピタリと頬まで寄せている。
適切な距離どころかもはやゼロ距離のそれは、アルジュナと同じ顔で、引き攣ったアルジュナの笑顔とは真逆に頬を染めて微笑んでいた。
「何をやっているのですか、私」
アルジュナが呼んだ“私”。それは正しくアルジュナのもう1つの姿だった。もっと正確に言うならば、インド異聞帯にて多くの神を取り込み唯一神となったアルジュナオルタなのだが。
「ナマエと触れ合っています」
きょとりと首を傾げてそう答えたアルジュナオルタに、アルジュナは益々顔を引き攣らせるとアルジュナオルタの腕を掴んだ。
「それは見たら分かる!
そんなにくっ付いていてはナマエに迷惑でしょう、それに私が聞きたいのは何故そんなにくっ付く必要があるのかということです!」
ぐいぐいと引き離すようにアルジュナオルタの腕を引っ張るが、そんなもの何処吹く風と余計にナマエに引っ付いていく。
「ナマエの傍はとても落ち着く。同じ私なら分かるはずです。
それに、ナマエから既に許可はとっています」
「ぐっ!.......わ、私は今関係ないでしょう!
ナマエは優しいから、許しているだけで迷惑しているはずです、離れなさい!」
同じ顔がキャンキャンと吠えて、と言っても珍しく声を荒らげているのはアルジュナだけで、オルタの方はすんっとしたままなのだが。
そんな自身の真隣で行われる同一人物同士のやり取りにナマエはカルデアならではの光景だなぁと微笑ましく見ていた。
「ふふっ、大丈夫だよアルジュナ。迷惑だなんて思ってないから。俺のためにありがとう。
でも、俺もアルジュナオルタにくっつかれるの、正直嫌じゃないしね」
「そ、そうですか.......ナマエがいいなら、いいの、ですが.......」
のほほんとそう伝えたナマエに、アルジュナはどこかガンッとショックを受けたようで、そっとアルジュナオルタから手を離した。
そんなアルジュナをじっとオルタが見つめたかと思うと、今度は逆にオルタがアルジュナの手を引っ張った。
「私も、ナマエと触れ合うと良い。
ナマエ、構いませんか」
「あぁ、それは良い提案だね!」
オルタの提案に、アルジュナは目を見開いて、それからおいでと手招くナマエを見るとぐぅと小さな唸り声を上げた。
「まぁ、アルジュナがいい歳した武辺者にくっ付くのが嫌じゃなかったらだけどな」
へらりとそう言って笑うナマエに勢い良くアルジュナは顔を上げた。
確かにナマエはアルジュナより年上の、いい歳した大人の男だ。
武辺者と言うだけあって戦場で鍛え上げられた肉体は、触れても柔らかいどころか硬いとさえ思わせるのだろう。
だがそれが何だと言うのだろう。そんなものは逆にナマエの魅力でしかない。
年上というだけあって包容力があり、でもどこか笑った顔は子供っぽくてギャップにいつも胸がキュンと締め付けられるし、無駄な脂肪の無いその筋肉に触れてしまえばどれ程こちらに熱を伝えるのだろうと想像するだけで、ふるりと背筋が震えてしまう。
そんなナマエにくっ付くのが嫌なわけがないじゃないかと、むしろ離れ難くなってしまうのが分かっていて気持ちを抑えるために距離を置いているのに。
ナマエの片腕に抱きつくもう1人の自分、少し寂しげに笑うナマエの姿。
アルジュナの中の鉄壁の理性がぐらぐらと揺れて、気付けばオルタとは逆の腕へと遠慮がちに抱き着いていた。
「.......ほ、ほんの少し.......ほんの少しの間だけ、お、お邪魔します」
「.......ふふっ、うん。どうぞ」
柔らかく笑うナマエの顔を間近で見て、アルジュナははくりと口を震わせて俯いた。
抱き着いた腕から伝わる体温は熱いほどで、ドクドクと鼓動が速まる。
黒髪の間から覗いた耳朶が赤く染ってしまう。こんな所、誰にも見せられやしない。
「良かったですね、私」
オルタがアルジュナの顔を覗き込んで、ふわりと笑った。
あぁ、そうだ。同じ自分同士なのだから、この想いも何もかも筒抜けどころか同じものなのだと気が付いて、アルジュナは厄介な事この上ないと息を吐いた。