運命
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
男が1人、よく分からない道具の置かれた部屋で黙々と作業をしていた。
その男の肩へ、外の雪にも負けない真白の小さな獣が、ぴょんっと飛び乗る。
「フォウ、フォーウ」
「あ、もうそんな時間?」
男はちらりと腕時計に1度目をやると、作業を中断させてその肩に獣を乗せたまま長い廊下を歩き出した。
男の名前はナマエ。カルデアに勤めるスタッフの1人である。
ナマエはよくある長くも短くもない、そこそこな魔術師の家系に生まれて、それなりに優秀だけれど、まぁ言ってしまえばよくいる平凡な魔術師であった。
そんなナマエは、何故だかこのカルデアのマスコットというか、ペットというか不思議生物であるフォウくんにマシュやマスターである藤丸立香以外で懐かれている数少ない人物であった。
それはまだナマエがカルデア勤務初日のこと。
どこからともなく現れナマエの肩へと飛び乗ったフォウくんに、最初は何だこの生き物と混乱し慌てたものだったが、たまたま通りかかったDr.ロマンが目を見開いた後に苦笑いで、「あんまり人に懐かないのに珍しいね。君さえよければ仲良くしてあげて」なんて言われてしまったものだから、その日1日フォウくんを肩に乗せておっかなびっくり作業をしたものだ。
それも今では慣れて、午後の休息時間にやってくるフォウくんと一緒にお茶するまで打ち解けている。
「今日のおやつは、タマモキャットさんから貰ったクッキーにしようか」
「フォフォーウ」
なんて平和な会話をしている時だった。
「おや、随分とキャスパリーグが懐いてるね」
突然割り込んできたその声に驚いて目線をやる。どこか花のような雰囲気のあるその人に、確かキャスタークラスのサーヴァントだったような、と思っていると、肩に乗っていたフォウくんが唸り声を上げていた。
「マーリンシスベシフォーウ!」
聞いたこともない唸り声を上げながら威嚇しているフォウくんに目を丸くしていると、その威嚇すら意に返さずにキャスターのサーヴァント、もといマーリンはヘラヘラと笑っている。
「ははっ、いつもなら生意気に蹴りのひとつでもしてくるのに、今日はしないんだね。
もしかしてその人間の前だから、猫でも被っているのかな?あの災厄の獣が」
どこか煽るようなその口調に、フォウくんは心底嫌そうに顔を顰めた。
そんなフォウくんを宥めるように、ナマエはそのフワフワの頭を撫でてやる。
「あの、どういう関係かは分かりませんが、あんまりフォウくんをいじめないであげてください」
友達なんです。
ナマエのその言葉に、フォウくん、そしてマーリンも目をきょとんとさせていて、何だかそれがあまりにもそっくりで、ナマエは思わずくつくつと喉を鳴らしてしまった。
「フォキャーウ、フォ、フォ〜ウ」
ついさっきまでの唸り声はなりを潜めて、代わりにどこか嬉しさを滲ませた声を上げながらフォウくんがすりすりとナマエの頬に擦り寄った。
「まぁ、君がそれでいいのなら、私は構わないんだけどね」
それじゃあ私は行くよ、と手を振るマーリンの背に、もう二度と来んな!とでも言うかのようにフォーウ!と鳴くフォウくんの頭をまぁまぁとまた撫でた。
何だかナマエには分からないことを言う不思議な人だったな、と思う。
「今度はあの人も誘って、3人でお茶でもする?」
その提案に、フォウくんはやっぱり心底嫌そうな顔で思い切り首を振った。
それがおかしくて、冗談だよと笑ったら頭突きをお見舞された。
ナマエとフォウくんは今日も仲良しである。