運命
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ひそひそと聞こえ始めた女性達の色めき立つ囁き声にナマエは咄嗟にその場を後にしようとして、けれど悲しいかなそれが叶うことはなかった。
「ナマエ!」
背後から嬉々として呼ばれた声に一足遅かったことを悟い、しょうがないと背後を振り返った。
「……帰ってきたのかディルムッド」
「あぁ、つい先程戻ったんだ」
トロリとした笑顔を浮かべて隣に並び立った男、ディルムッドにナマエは隠れてため息を吐いた。
ディルムッド・オディナ。彼とナマエは同じフィオナ騎士団に所属する騎士である。
魅了の呪いがかけられた黒子、それを抜きにしても整った面立ちは正しく絶世の美男子。それだけに飽き足らずニ槍流の彼は筆頭騎士として武勇にも秀でた彼は、正しく勝ち組。天は二物を与えずなんて嘘だなど、ナマエはディルムッドを見る度思う。
ナマエとて、フィオナ騎士団に所属している以上、それなりに腕には自信がある。けれどディルムッドに試合で勝てたのは片手で数える程度。見た目もディルムッドが「輝く貌」であるのならばナマエはせいぜい「道端の小石貌」が妥当だろう。
だからナマエはディルムッドの事が苦手だった。
ディルムッド自身はとても良い奴だと言えるだろう。けれど勝ち組ディルムッドの隣に1歩立てば何かと自分とディルムッドの事を比較してしまうし、何より女性からの視線が痛い。
ディルムッド本人は何も悪くないのだが、それでも無意味な嫉妬心を覚えずにはいられない。
だからナマエは自分とディルムッドの為に距離を置こうとしている。置こうとしているのだ。
それだというのに、当の本人であるディルムッドは何故だかナマエを好いていた。
「今日はナマエには会えないと思っていたが、こうして会えて幸運だ」
正しく蕩けるような笑みを浮かべてそう言うディルムッドに、その発言も笑みも女性に向けてやれと思いながら「そうだね」と空笑いで返した。
何となく、遠目からこちらを伺いみる女性達の視線が痛い。
「あぁ、そうだ。良かったらこの後食事でもどうだろうか」
そう誘うディルムッドの顔は、何故だか薄らと赤らんでいる。本当に何故なんだやめてくれ、益々女性の視線が痛い。
「いや、俺は今日はちょっと……」
断ろうとして途中まで言いかけた言葉は、ディルムッドの顔を見て飲み込んだ。
捨てられた子犬、という表現がピッタリのしょんぼり顔。美男子はそんな顔まで美男子なのかやめてくれ。
女性達の視線が刺さる、刺さる。
視線の圧とディルムッドのしょんぼり顔に痛む胃と募る罪悪感。
「あ、あー……そう!俺も今日ディルムッドとご飯行きたいな〜って、思ってたんだよねぇ」
パァァとディルムッドの顔が輝く。これが本当の「輝く貌」ってか?うるせぇわ。
いやディルムッドは苦手なだけで嫌いじゃないし、別にご飯くらいいいんだけど。 いいんだけど。
了承したら了承したで、今だ突き刺さる女性達の視線。
「美味い蜂蜜酒と新鮮な肉が出る店を見つけたんだ。そのうち、ナマエと行ければ良いと思って」
「それは、楽しみだなぁ」
ディルムッドが俺の手を取って歩き出す。
本当に何故こんなに懐かれているというか、好かれているというのか、ナマエには全く心当たりがなくて内心頭を抱える。
男同志で手を繋いで楽しいのだろうか。チラリと見たディルムッドの顔は心底嬉しそうだった。たぶんディルムッドが犬ならちぎれんばかりに尻尾を振っているだろう。
ディルムッドの事は、本当に嫌いじゃない。嫌いじゃないのだ、苦手なだけで。
後女性達から視線の圧がすごくて痛いだけで。
俺、そのうち刺されたりしそうだな。
なんて心底嬉しげなディルムッドの輝く貌に、今日はディルムッドの奢りで蜂蜜酒めちゃくちゃ呑んでやろうと決めた。