運命
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背面に感じる柔らかなベッドの感触と、俺に覆い被さる生真面目で堅物な上司。
酒に酩酊した頭が、どうしてこうなったんだっけとゆるゆると記憶を遡り始めた。
「おめでとう、アグラヴェイン!」
開口一番そう告げた俺に、上司のアグラヴェインは心底嫌そうな顔をした。
俺とアグラヴェインとの関係は、一言では言い表しづらい。
同じ「キャメロット」という会社に勤めていて、アグラヴェインの方が歳も勤務歴も1つ下。けど仕事の出来も役職も俺よりずっと上。
堅物で真面目、仕事一筋で誰よりも社長に忠誠を誓っている彼は、自分の身内以外には冷たい。人間不信で女性嫌い。
そんなアグラヴェインだから、社内の人間からお世辞にも好かれているとは言いがたかった。
けど、俺はそんなアグラヴェインが好きだ。
付き合いづらい性格ではあるけれど、仕事に真面目なのは良い事だし、自分から憎まれ役をかってでる様な事を人はなかなか出来ない。
俺はそれをすごいことだと思う。それに何故だか、俺はアグラヴェインと一緒にいると懐かしい気持ちになるというか、放っておけないというか、構いたい気持ちになるのだ。
だから俺とアグラヴェインは社内では比較的仲の良い方だと思うし、アグラヴェインも俺の事を時々ウザそうな目で見はすれど、そこそこ好いていてくれていると思いたい。
6割の確率で一緒にご飯食べるの断られてるけども、他の人たちは10割り断られてるからそういう事なのだ。
ちなみに社長のお誘いにはどんな些細なことであれアグラヴェインが断ることは無い。というか社員全員断らないけど。
だからそんな俺が、アグラヴェインの誕生日だなんて一大イベントを見逃す事なんて出来るはずがなく、満面の笑みで祝いの言葉を送ったのだ。
「何か欲しいものある?いつも誰よりお仕事に励んでいるアグラヴェインくんに、仲良しの俺から誕生日プレゼントをあげようじゃないか!何でも言ってみなさい!」
「そうか、今すぐ業務に戻れ」
案の定アグラヴェインは欲しいものなんて言わずに、眉間に皺を寄せて俺にそう告げた。
「じゃあ終業後空けといてよ。どっか飯行こ、奢るからさ!それまでに欲しいもの考えといて!」
それでは業務に戻りま〜す!なんて巫山戯て手を振る。もしかしたら兄妹であるガウェインさんやガレスさん達と過ごすのかも、と頭をよぎったが、アグラヴェインが断ることなく仕方ないなと頷いたのが見えて嬉しくなった。
「改めてお誕生日おめでとう、アグラヴェイン!お前が生まれてきてくれて、こうして出会えて、本当に嬉しいよ!」
何故だかそう言なきゃという感情に襲われて、声を大にして告げた。
小っ恥ずかしくなって、反応を見る前に駆け足で逃げたけれど、たぶんアグラヴェインの事だから眉間を押さえて溜息でも吐いてるんだろうななんて思いながら、俺は終業後に行く店のラインナップを頭に浮かべ始めた。
それで
それから
どうしたんだっけ
個室の居酒屋を予約して、2人で酒呑んで、ご飯食べて、
それから
俺はベッドに仰向けになっていて、そんな俺にアグラヴェインが覆い被さってる。
ふわふわと思考が覚束無い、酒にはそこそこ強かったはずなのに。
「お前が、」
何かを言いながら、アグラヴェインが俺のワイシャツのボタンを外していく。
そういえば、ジャケットはどこにやったんだろか。いつの間にか身に着けていなかった。
「お前が、何も覚えていない筈のお前が、あの日と同じ事を言うから」
はだけた俺の胸元に、アグラヴェインの手が滑り込んできて鎖骨をなぞる。
「欲しいものを言えと言ったのは、お前だろう」
いまだにハッキリとしない思考、チリチリと目の前にノイズがはしって、アグラヴェインの体に黒い鎧が重なって見えた。
「そういえば、まえにも、こんなこと……」
あった気がする、と続けようとした口はアグラヴェインに塞がれて表に出ることはなかった。
「お前は何も、思い出さなくていい」
数秒遅れてキスされたのかと自覚する。
どこか懇願するような声音と、今にも泣き出してしまいそうな表情に、襲われてるのは俺なのになぁ、なんて頭の片隅に過ぎった。
「今度こそ私の傍から、いなくならないでくれ」
ギシリと軋むベッドの音と、重なる肌の熱さを俺は何故だか拒むことが出来なくて、そっとそれに身を委ねた。