運命
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トントンと等間隔で鳴る音に、カイニウスは振り向いた。
「こんな所に居たのね、カイニウス」
キラキラと輝く蜂蜜色の髪と、柔らかな笑顔。
物言う花という言葉がピッタリの愛らしい少女の手には、真っ白な杖。
薄らと開いた少女の瞳は、何も映してはいない。けれどその瞳は、まるで星空を閉じ込めたかのように美しい。
「あんまり出歩くなって言っただろうが」
ぶっきらぼうな言葉を述べながらも、気遣うように少女の手を握るカイニウスに、少女はクスリと笑を零した。
少女の名はナマエ。カイニウスに拾われた、瞳に星空を抱く盲目の少女である。
カイニウスがナマエを拾ったのは、大嫌いな海の傍だった。
その日海に近付いたのは、魔獣の被害が出たためで、波打ち際で倒れていた彼女を見つけたのは偶然だった。
白波を切り取ってあつらえたかのようなワンピースは水を吸って柔肌に張り付き、蜂蜜色の豊かな髪は砂浜の上で散らばっている。
海と倒れる少女。
それはカイニウスの頭の中で忌々しい記憶を想起させる。
普段ならば部下に助けさせるところを、カイニウスは自ら少女を抱き起こす。
その僅かな衝撃に、ふるりと瞼が震えゆっくりと開かれる、そこから覗いた瞳にカイニウスは息を飲んだ。
それは星空だった。
星空の一部を切り取って埋め込んだような瞳。
美しいと思った。
この瞳が、他の奴らに汚されることが許せなかった。
何よりあのくそ憎たらしい海から逃れてきた人間を無下にする程、情がない訳では無い。
それがカイニウスが少女を、ナマエを連れて帰った最初の理由だった。
それだけの理由のはずが、カイニウスは今心底からこのナマエという少女を愛している。
目が見えないぶんなのか、他人の機微に敏感で人の傍にそっと寄り添い微笑むような人だった。
大人しく見えて好奇心旺盛で、目が離せないような人だった。
カイニウスだろうがカイニスだろうが、貴方自身が好きなのだと言う人だった。
ナマエの、武器など持ったことの無い柔らかな掌が、カイニウスの頬を包み込む。
「大好きよ、カイニウス。私を見つけて拾ってくれたのが、貴方で良かった」
星空の瞳がカイニウスを見つめる。
いつか死する時が来たならば、この星空へと飛び立ちたいと思った。