運命

ナマエ

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主に男主
原作改変等有り
ナマエ


とある森を、男が1人歩いておりました。

男の名前はジークフリート。
ネーデルラントの王子であり、数多の冒険を重ね邪竜ファヴニールを打ち倒した、竜殺しの英雄でございます。

さて、そんな彼の足元で、1匹の小さなトカゲが、落石かはたまた誰かの悪戯か、石に挟まれもがき苦しんでおりました。
このままではトカゲは、飢えや渇きで死んでしまうでしょう。
それを見たジークフリートは、トカゲから石をどかし、助けてあげました。

助けたトカゲをよくよく見ると、それは珍しい真白の体と、硝子をはめ込んだ様な綺麗な青い目をしておりました。

「珍しいトカゲだ。悪い人間に捕まらないよう、気をつけるといい」

そう言って指で優しくトカゲの頭を撫で森を去って行くジークフリートの背を、トカゲはその青い目をいっぱいに見開いて、いつまでも見つめていました。





「ジークフリートーー!!!」

勢いよく走り寄ってきた青年に、ジークフリートは笑みを浮かべた。
青年の名前はナマエ。真白い癖毛に青い目の快活な青年である。
ジークフリートとナマエの出会いは数年前、ボロボロの状態で倒れていたナマエを見つけ助けたのがジークフリートだった。

そんなナマエがジークフリートに懐くのは明白な出来事で、ジークフリートも自分を慕ってくれているナマエを弟のようにおもい気にかけていた。

「ジークフリート、この前貴族の人達に呼び出されたんでしょ?
どんな話だったの、また面倒事頼まれたりしたの」

求められればそれに応じるという彼は、それがどのようなことであろうと叶えようとしてしまう。
そのために時折人々から厄介事を押し付けられることも少なくはなかったのだ。
心配するような怒っているようなナマエの顔に、ジークフリートは困ったような笑みを浮かべる。

「あぁ、西の森の竜討伐を頼まれた。ファヴニールを倒したのなら出来るだろうと」

話の内容にナマエは何それ!?と怒りと呆れを顕に声を上げる。
いくら1度竜を倒したことがあるといっても、次も無事に倒しきれるとは限らないのに何故こうも簡単に言えるのか。
ジークフリートもジークフリートで2つ返事で了承するのだからとナマエはむっと頬を膨らませた。

「というか!そもそも西の森に竜がいるなんて話、聞いたことないよ!!」

そう、西の森には竜などいない。
貴族達はいもしない竜の討伐をジークフリートに依頼したのだ。
何故貴族達がそんな依頼をしたのかといえば、ただ単純にジークフリートの存在が気に入らないからだ。
ジークフリートはどんなことでも請われればそれに応えてしまう。貴族達もそれを分かっててこんな下衆な事をしたのだ。
そして依頼を遂行できなかったジークフリートに、何かしらの罰を要求でもするつもりなのだろう。

「ジークフリートも、そういう理不尽な頼みは断っていいんだよ!」

ジークフリート本人よりも顔を赤くして怒るナマエに、ジークフリートは苦笑を浮かべながらその頭は撫でる。

「……ジークフリート、俺が頭撫でて貰えれば機嫌良くなるって思ってるでしょ」

「すまない、そんなつもりはなかったんだが……いや、すまない……」

頭を撫でるジークフリートの手が、更にわしゃわしゃとナマエを撫で回す。

「も〜!ジークフリートォ〜……」

ぶすくれていたナマエの顔が、ようやくしょうがないといったふうに笑みを浮かべる。
ジークフリートは、ナマエの笑顔が好きだった。



別れ際、ナマエはじっとジークフリートの背を見つめていた。その青い目に焼き付けるかのように、その姿が見えなくなるまで。







竜討伐を頼まれたジークフリートが森を歩いていますと、真白い体に青い目を持つ竜がどこからかやって来ました。

竜はジークフリートに気が付くと、木々をなぎ倒し、グオオ!と大きな声を上げ暴れ始めます。

ジークフリートは大剣を構え、竜に斬り掛かりました。
竜はさらに木をなぎ倒し、町まで響くほどの大声を上げました。

負けじとジークフリートは、大剣を思い切り振りかざすと、竜の喉元目掛けて振り下ろしました。

どおおん。

首から血を流した竜は大きな音を立て、地面に倒れ伏しました。
これで悪い竜はもういません。

こうして英雄ジークフリートは、新たな竜退治を成し遂げたのでした。

めでたし めでたし







辺り一面に流れる血、流すは真白い体を赤黒く染め事切れた竜。

ジークフリートは己が殺した竜の亡骸を見つめる。
本来なら居ないはずの竜が現れたのには驚いたが、どこからか飛んできたのだろうか、それとも元々この森に居たが今まで隠れていたのか。どちらにせよ何処に被害が出る前でよかったと思うべきなのか。
悪しき竜はもういないはずなのに、これで人々の願いを叶えたはずなのに、何故こうも苦しいのか。酷い喪失感が胸を襲う。
ナマエの安心するような、陽だまりのような笑顔が早く見たくて、心配をかけてすまないと謝りたくて、何かに急かされるように帰路につく。

竜の濁った瞳は、もう何も写してはいない。












真白い竜を打ち倒したその日から、ナマエがジークフリートの前に姿を表すことはなかった。






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